【完結】婚約破棄された悪役令嬢は攻略対象のもふもふ従者に溺愛されます

かずきりり

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01.婚約は撤回ですね

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「レティシア・ミゼラ公爵令嬢!お前との婚約を破棄する!」

 我が国の第二王子、ディアス・ヴィ・アルヴァン殿下が声高に叫んだ瞬間、私は強い既視感に襲われた……かと思ったら、膨大な記憶が雪崩こんできた。
 脳を駆け巡る情報を処理しきれないのか、脈打つような頭痛に耐え、その場にしっかり立ち、殿下達に目を向ける。

 ――思い出した。

「よくも私の愛しいリディをいじめてくれたな!」

 ――ここは……乙女ゲームの世界。

 私は周囲に素早く視線を駆け巡らせ、ゲームと明らかに異なる一点を確認すると、周囲にバレないように安堵の息をついた後に、再度しっかり殿下達へと目を向けた。
 紫色の短髪に美しい濃い青い瞳。整った顔立ちをしたディアス殿下は、まさしくメイン攻略対象者で、可愛らしい女性の腰を引き寄せて、私を睨みつけている。ディアス殿下に寄り添っている女性は確かリディア・ファルス伯爵令嬢だ。ゆるふわしたピンクの髪に、こちらも美しい青い瞳だが、殿下より少し淡い色をしている。後ろには宰相補佐、騎士、魔術師、聖職者と見事に攻略対象者が並んでいる……ゲームのスチル通り。
 ただ……一人だけ居ない。それがゲームとは異なる点。
 しかしここはゲームではない、現実だ。私は今、ここで生きているという実感を再度持つ為にも、足にグッと力を入れ地を踏みしめる。ヒールでは安定しないのが何とも言えないけれど。そして公爵令嬢として美しいカーテシーを披露する。

「婚約撤回、受け入れます」

 そう一言伝えると、踵を返して会場から出る。
 破棄ではなく、撤回だ。そこだけは訂正する必要があるので、あえて言わさせてもらった。断罪、そしてエンディングなんてのはゲームの世界だけで、私の人生はまだまだ続くのだ。まぁ、実際の所としては悪役令嬢として追放され、その後の事なんてゲームで描かれていないので知らないけれど。それでも、そんな未来を甘んじて受ける意味も分からないし、何より1つだけでもゲームと違う箇所を見つけたら、それがある意味で希望に繋がった。

「シア様、お手をどうぞ」
「ありがとう、フィン」

 白銀の髪をし、青い瞳をした十歳位の少年が私に差し伸べた手を取り、馬車に乗り、フィンが御者に声をかけ馬車を公爵邸へ走らせる。
 まだ幼い少年なのに、フィンは私の専属従者として働く程に優秀なのだ。まぁ、私の専属従者なのは他にも理由があるのだけれど……。

「大丈夫ですか?シア様」

 気遣うような瞳で私に問いかけてきたフィンへ、私は満面の笑みを見せる。

「問題ないわ!まだまだフィンと居られるしね!」

 その一言に一瞬驚いたような顔をしたフィンだが、すぐに笑顔になる。

「シア様の幸せが一番大事です」

 その笑顔と言葉に、私は思わずフィンを撫で繰り回したくなるのを必死で抑えた。
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