異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり

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第二章

26.適材適所で

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「琴子! 起きられるようになったの?」
「うん。そろそろ普通の食事にしようってなって……」

 朝食の席に琴子が来たのを見て、私は驚きと嬉しさの声をあげれば、琴子は恥ずかしそうに答えた。
 二週間も意識がなかったという事から、琴子はしばらくの間パン粥を食べていたし、身体の状態確認を兼ねてのリハビリのようなものも行っていたのだ。
 ……それに、夜中にはたまに琴子の悲鳴も聞こえていた。
 きっと魔物に襲われた時の事を夢見ていたのだろう。その度に私も胸を締め付けられる思いだった。

「久しぶりに皆が揃っての食事ですね」

 にこやかに枢機卿が言い、食事が始まる中、枢機卿だけが少し手を止めて、感慨深そうに私達の顔を見渡して涙ぐんだ。
 当たり前の事が幸せに感じる。
 ただ、それだけの事だ。
 ゆっくりとした風景。そんな幸せを噛みしめるように、皆が食事を終えると、枢機卿が口を開いた。

「今後の事ですが……琴子様には後方支援に回って頂こうと思っております」
「な……何でですか!?」

 琴子は枢機卿の言葉にビクリと身体を震わせ、噛みついた。
 使えないと思われたら、どうなるのかと不安に思っていた琴子にとっては当然だろう。
 だけれど、その事はちゃんと枢機卿に伝えた。きっと考えがある筈だと、私はそのまま口を挟む事なく、二人の会話に耳を傾けた。
 キィも少し心配そうな顔つきで、二人を見守っている。

「確かに今回の事で前衛から外したというのがあります。それは琴子様の精神的な問題もありますが……」
「大丈夫です!」

 枢機卿の言葉を遮るように琴子は叫ぶ。
 その様子に慌てるどころか、しっかりと琴子の瞳を見た枢機卿は優しい微笑みを浮かべた。

「琴子様は植物の育成に対し、成長を早くするだけでなく良いものを育てられます。それは民達の食糧問題を解決する事にもなり、必要な力です」

 諭すように力強く、けれどゆっくりと枢機卿は言った。
 全員をちゃんと見ていたからこそ、気が付けた所なのだろう。私は、琴子の植物がそこまで良い状態で育っているなんて知らなかったし気が付かなかった。

「適材適所というやつですね。全ての方が前線に立つ必要もないのです。後方支援が得意だという方が前線にたった所で、命を捨てるだけです。わざわざ投げ出す必要はないのですよ。」

 琴子はポカンとした顔をしている。
 いきなりの話で驚いているのだろう。私とキィも真剣に話を聞く。
 適材適所で良いと思うのだ。
 むしろ、パニックになられて計画通りの陣営が崩れた場合……護衛騎士や真が居なければ私達も危なかったのだから。
 食糧支援の方で力を発揮できるのであれば、それで良いと思う。それこそ琴子の価値となる。
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