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第二章
25.琴子の目覚め
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「琴子!?」
「!」
私は咄嗟に琴子へ呼びかけたのを見て、キィも側に来る。
気のせいだったのかなと思うけれど、私は琴子の腕をさする。せめて身体の感触が琴子へと届けばと。気が付いてくれればと。
大切なものは作らないと決めていても、見捨てる事とはわけが違う。
ううん……もうどこか同郷の仲間という気持ちが無意識の内に芽生えてしまっているのだろう。
「琴子!」
お願い、目を覚まして。
キィも切実に願うかのように、琴子の手を握り締めて声をかける。
「琴子!」
「琴子様!」
デイルやウィルも同じように声をかけていれば、更に琴子の瞼が痙攣して……そして、うっすらと開いた。
「琴子!」
「……ここ……は……私の部屋?」
まだぼんやりとしているのだろう。
そりゃそうだ、二週間も眠ったままだったのだから。
「枢機卿を呼んできます!」
「アンドリュー!」
デイルとウィルが二人を呼びに部屋を出て行き、私とキィは溢れる涙を止める事が出来なかった。
「良かった」
「琴子……どこか痛い所はない?」
「……うん……?」
キィは安堵したように息を吐き、私は琴子の身体を気遣う。
よく分からないと言った琴子は首を傾げているけれど、痛い所はないようだ。ただボーッとしている。
「琴子様!」
「琴子様!!」
琴子をゆっくりと置きあげ、背にクッションをかませて水分や食事が出来るよう体制を整えていれば、ノックも忘れ、アンドリューと枢機卿の二人が部屋へと雪崩込んできた。
しっかりと起き上がり目を開けている琴子を見た二人は、そのまま涙を流す。
「どこかおかしな所はありませんか?」
「え……あ、はい……」
涙を拭う事も忘れ、枢機卿は琴子へと駆け寄り、その身体を見る。
そんな状況に戸惑う琴子だけれど、続いてやってきたアンドリューを見て、目を見開いた。
「良かった……」
「あ……あぁああ!」
安堵したのは一瞬で、直ぐにアンドリューは驚いた顔をした。勿論、私達もだけれど、枢機卿は琴子の背を撫でた。
「あ……あぁああ! 腕が! 足が!」
「大丈夫です。大丈夫ですよ」
続いた言葉と、自分の手足を確認する琴子を見て、私も息を飲んだ。
……思い出したのか。魔物に襲われた瞬間を。
琴子の惨状を考えれば、忘れられるものならば忘れたいだろう。
「もう大丈夫です」
優しく声をかけて背中をさする枢機卿の声は、琴子に届いていないだろう。
恐怖に襲われ、ただ叫び、涙する。
そして、私の耳にも、琴子の悲鳴が思い起こされた。
目覚めて良かったと思ったけれど、それはそれで苦しみもあるのかと、私は琴子から視線を反らした。
「!」
私は咄嗟に琴子へ呼びかけたのを見て、キィも側に来る。
気のせいだったのかなと思うけれど、私は琴子の腕をさする。せめて身体の感触が琴子へと届けばと。気が付いてくれればと。
大切なものは作らないと決めていても、見捨てる事とはわけが違う。
ううん……もうどこか同郷の仲間という気持ちが無意識の内に芽生えてしまっているのだろう。
「琴子!」
お願い、目を覚まして。
キィも切実に願うかのように、琴子の手を握り締めて声をかける。
「琴子!」
「琴子様!」
デイルやウィルも同じように声をかけていれば、更に琴子の瞼が痙攣して……そして、うっすらと開いた。
「琴子!」
「……ここ……は……私の部屋?」
まだぼんやりとしているのだろう。
そりゃそうだ、二週間も眠ったままだったのだから。
「枢機卿を呼んできます!」
「アンドリュー!」
デイルとウィルが二人を呼びに部屋を出て行き、私とキィは溢れる涙を止める事が出来なかった。
「良かった」
「琴子……どこか痛い所はない?」
「……うん……?」
キィは安堵したように息を吐き、私は琴子の身体を気遣う。
よく分からないと言った琴子は首を傾げているけれど、痛い所はないようだ。ただボーッとしている。
「琴子様!」
「琴子様!!」
琴子をゆっくりと置きあげ、背にクッションをかませて水分や食事が出来るよう体制を整えていれば、ノックも忘れ、アンドリューと枢機卿の二人が部屋へと雪崩込んできた。
しっかりと起き上がり目を開けている琴子を見た二人は、そのまま涙を流す。
「どこかおかしな所はありませんか?」
「え……あ、はい……」
涙を拭う事も忘れ、枢機卿は琴子へと駆け寄り、その身体を見る。
そんな状況に戸惑う琴子だけれど、続いてやってきたアンドリューを見て、目を見開いた。
「良かった……」
「あ……あぁああ!」
安堵したのは一瞬で、直ぐにアンドリューは驚いた顔をした。勿論、私達もだけれど、枢機卿は琴子の背を撫でた。
「あ……あぁああ! 腕が! 足が!」
「大丈夫です。大丈夫ですよ」
続いた言葉と、自分の手足を確認する琴子を見て、私も息を飲んだ。
……思い出したのか。魔物に襲われた瞬間を。
琴子の惨状を考えれば、忘れられるものならば忘れたいだろう。
「もう大丈夫です」
優しく声をかけて背中をさする枢機卿の声は、琴子に届いていないだろう。
恐怖に襲われ、ただ叫び、涙する。
そして、私の耳にも、琴子の悲鳴が思い起こされた。
目覚めて良かったと思ったけれど、それはそれで苦しみもあるのかと、私は琴子から視線を反らした。
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