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第二章
24.日常は当たり前ではなく
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真、私、キィの順番で一日交代にて琴子を見る事になった。
枢機卿は夜間を請け負ってくれるとの事だ。勿論そこにはアンドリューも居るから、夜に男女二人という事にならないと説明も付け加えてくれた。まぁ、そこは心配していないのだけれど、体裁というものだろう。
致命傷を治したと言っても、それだけだ。
「瑞希様。体調は大丈夫ですか?」
私の番になり、朝から琴子の側で徐々に神力を流しながら様子を見ていれば、デイルは心配そうな顔つきで私の側に立っている。
「私より琴子でしょう」
神力を使う事は体力を使うよりも疲労が激しい。
けれど、それはまだ命に関わるようなものでもなく……むしろ疲れて倒れる程度のものだ。
……倒れずに、それ以上使ったら分からないと思うけれど。
過労死って言葉もあったくらいだし。
「……すぐに目を覚ますと言いのですが……」
デイルとそんな会話をしながら、二週間が過ぎた。
昨日診ていた感じでは、ほとんどの傷が治って来て、内臓の損傷による後遺症的なものも見られない筈だ。
あともう少しで完治という位なので、神力を流すのは止めようとなった。あとは琴子の自己治癒力に任せるのだ。
だけれど……まだ琴子は目覚めない。
神力の訓練等も、もう今は行われていない。それどころの感情ではないし、そもそも自分が担当していない日はしっかり身体を休ませて体力を取り戻す為というのもある。
しかし、そうは言っても手持無沙汰で暇だ。街へ行く気にもならない。今日はキィが見ている日だと思って、私は顔を出した。
「キィ?」
「あ……」
泣いていたのだろうか、涙の痕が残るキィは、私の声で顔を上げた。
側には何とも言えない顔をしたウィルが立っている。
「……お茶とお菓子持ってきたの」
「ありがとう……瑞希はちゃんと休んでる……?」
「うん……でも、気になっちゃって」
私がというより、デイルが持ってきたお茶とお菓子をテーブルに乗せてもらう間、私は琴子の方へ近寄って覗き込んだ。
……よく眠っている。
ただ見ると、そう思えるだけの表情だ。
何の変化もなく、何も可笑しい所なんてない。
不安がって、震えて……なのに、いきなりキィと喧嘩を始めたりして……。
だけれど、明日どころか、一瞬先にどうなるかなんて誰にも分からない。
幸せも、当たり前の日常も。全てはいきなり壊れるのだ。
「……琴子……」
両親も、祖母も。そして……元の世界。大切な親友。
琴子だって、このまま居なくなっても、それは私にとって当然で……なんて暗い考えに耽っていれば、琴子の瞼がピクリと動いたような気がした。
枢機卿は夜間を請け負ってくれるとの事だ。勿論そこにはアンドリューも居るから、夜に男女二人という事にならないと説明も付け加えてくれた。まぁ、そこは心配していないのだけれど、体裁というものだろう。
致命傷を治したと言っても、それだけだ。
「瑞希様。体調は大丈夫ですか?」
私の番になり、朝から琴子の側で徐々に神力を流しながら様子を見ていれば、デイルは心配そうな顔つきで私の側に立っている。
「私より琴子でしょう」
神力を使う事は体力を使うよりも疲労が激しい。
けれど、それはまだ命に関わるようなものでもなく……むしろ疲れて倒れる程度のものだ。
……倒れずに、それ以上使ったら分からないと思うけれど。
過労死って言葉もあったくらいだし。
「……すぐに目を覚ますと言いのですが……」
デイルとそんな会話をしながら、二週間が過ぎた。
昨日診ていた感じでは、ほとんどの傷が治って来て、内臓の損傷による後遺症的なものも見られない筈だ。
あともう少しで完治という位なので、神力を流すのは止めようとなった。あとは琴子の自己治癒力に任せるのだ。
だけれど……まだ琴子は目覚めない。
神力の訓練等も、もう今は行われていない。それどころの感情ではないし、そもそも自分が担当していない日はしっかり身体を休ませて体力を取り戻す為というのもある。
しかし、そうは言っても手持無沙汰で暇だ。街へ行く気にもならない。今日はキィが見ている日だと思って、私は顔を出した。
「キィ?」
「あ……」
泣いていたのだろうか、涙の痕が残るキィは、私の声で顔を上げた。
側には何とも言えない顔をしたウィルが立っている。
「……お茶とお菓子持ってきたの」
「ありがとう……瑞希はちゃんと休んでる……?」
「うん……でも、気になっちゃって」
私がというより、デイルが持ってきたお茶とお菓子をテーブルに乗せてもらう間、私は琴子の方へ近寄って覗き込んだ。
……よく眠っている。
ただ見ると、そう思えるだけの表情だ。
何の変化もなく、何も可笑しい所なんてない。
不安がって、震えて……なのに、いきなりキィと喧嘩を始めたりして……。
だけれど、明日どころか、一瞬先にどうなるかなんて誰にも分からない。
幸せも、当たり前の日常も。全てはいきなり壊れるのだ。
「……琴子……」
両親も、祖母も。そして……元の世界。大切な親友。
琴子だって、このまま居なくなっても、それは私にとって当然で……なんて暗い考えに耽っていれば、琴子の瞼がピクリと動いたような気がした。
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