異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり

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第二章

23.キィの反省

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「この世界は……琴子様にとって救いになっているのだろうか……それとも更に苦しめているのだろうか……」

 アンドリューは絞り出すような声を出し、切実そうな顔をした。
 ……本人から聞いた話を影で周囲に伝えるのは、どうなのだろうか。でも……。
 私はキィの方をチラリと見た後、皆に伝えようと決めた。だって……そうじゃないと、また琴子の心は抉られるだろう。

「実は……」






 私が琴子の事情を話し終えた後、沈黙が流れた。
 皆が呆然と琴子の傷を眺め、手で口を押えたりしている。

「……女に手をあげるなど……っ!」

 そんな中、アンドリューは悔しそうに歯を食いしばり、手を握り締めた。爪が掌に食い込んだようで、血が滴り落ちてきたのに気が付いたデイルは、そっとアンドリューの肩を叩いた。

「……子どもが……いないって……?」

 呆然とした顔をして、私に視線を寄越しながらキィは呟くように吐き出した。
 ウィルは、そんなキィを気遣うよう隣に立っている。

「本当に居なかったの……? 結婚したら皆、子どもを持つものじゃないの……? だって私……私……っ!」

 堰を切ったかのように、キィの瞳からは涙がぽろぽろと零れ落ちた。
 自分が琴子に何を言ったのか、その残酷さを理解したのだろう。

「私……私!!」

 思った事を、ただ言っただけ。
 冗談のように、悪ふざけのように。
 嫉妬から、妬みから。
 だけれど、それは琴子の心を確実に抉ったのだ。まるで姑のように。
 何も知らなければキィの言葉が酷いにしても、琴子に大人げないと思っていても可笑しくはない。デイルやウィルなんて気まずそうに俯いているし、アンドリューも視線を床に向けて歯を食いしばっているのだから。

「……反省出来るのは良い事です」

 枢機卿が優しくキィの頭を撫で、キィはパッと顔を上げて枢機卿を見た。
 枢機卿はまるで父親のような笑顔で、ゆっくりとキィの頭を撫でていく。

「何気ない言葉で人を傷つける事を学んだ。キィ様はこれから反省を繰り返してどんどん学んでいけます。人として成長出来るのですよ」

 その言葉でキィの目に力が宿る。
 折れない根性。成長する努力。
 まだ幼いのに、キィは本当に凄いと思う。
 純粋さゆえに残酷で、だけれど吸収する力も強いのだろう。

「琴子をしっかり治療して、目が覚めたら謝ろうか」

 真がしゃがんで、キィの目線にまで下がって言う。
 琴子が目覚めない限り、キィが謝罪する機会は失われてしまうからだろう。
 こんな後悔を残しながら生きるには、まだキィは幼すぎる。

「まず俺から様子見るから、治療できるようにしっかり休め。瑞希も」
「うん」
「わかった」
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