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第二章
22.古傷だらけの身体
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「……過去の古傷までは治せません……」
呆然とした声で枢機卿が呟き、皆が息を飲んだ。
切り傷から火傷の跡。そして……メラニン色素が多数沈着している箇所がある。いくら古傷だと言っても、全身至る所にあれば痛々しさも込み上げる。
命に関わるようなものはないかもしれないが、これほどまでの傷を残されてきたなんて……それはどれほど心も傷つけられてきたのだろうか。
「こ……れ」
キィが呆然とした顔で、こちらに視線を寄越したのと同じように、枢機卿も私へと視線を移した。
その視線は、理由を知りたがっているのだろうと予測出来たのだけれど、すぐ終わる内容でもない。
話すか、話さないか……そう思っていれば、更に琴子の身体にまとっている神力の輝きが一層強まる。
「今は治療を優先だ!」
「!」
「はい!」
真の怒号で我に返った枢機卿とキィが、すぐに琴子へと意識を向けて神力を流すのを見て、私も流した。
まずは致命傷ともなりえる内臓の損傷と出血が多い傷だ。
「……どうか……」
切実なアンドリューの願いに答えるよう、懸命に四人で神力を流していれば、致命傷だけは治癒できた。
……まだ手足の骨折までは治らないけれど、既に私は満身創痍で眩暈を起こしていた。
「キィ!」
幼いキィは更に疲労を貯め込んでいたらしく、ふらりと身体が揺らぎ、ウィルがそれを受け止めた。
「……今はここまでで、後は交代しながら様子を見て神力を流していきましょう……自己治癒力に期待して」
枢機卿が唇を噛みしめながら終了を宣言した後、私は身体の力が抜けてデイルに支えられた。
真の方へと視線を向ければ、息を吐いて地面の上に手を広げて寝転がっていた。……皆、神力を使い過ぎたのだろう。
それでも、琴子の致命傷だけでも治って……命が助かって良かった。まだ油断は出来ないかもしれないけれど。
私にはこちらの神力での治療知識はないのに、この大怪我なのだ。擦り傷程度の治療とはわけが違う。
「琴子様……」
アンドリューは琴子にそっと上着をかけて、怪我に響かないよう抱きかかえる。琴子のベッドにでも運ぶのだろう。いつまでも地面に寝かせておくわけにもいかない。
「琴子の古傷って……向こうの世界で……だよな」
この世界で贈り人にそんな事をする人なんて居ない。
真の確信的な言葉に、枢機卿と少し意識のあるキィがこちらを向いた。
「なんか知ってる? って、あんま人の過去を詮索するのは良くないかもしれないけど……」
真も言いにくそうに私へと視線を向けたけれど、気になって当たり前だろう。
私は前に話を聞いていたけれど、あそこまでとは思っていなかったのだから。
呆然とした声で枢機卿が呟き、皆が息を飲んだ。
切り傷から火傷の跡。そして……メラニン色素が多数沈着している箇所がある。いくら古傷だと言っても、全身至る所にあれば痛々しさも込み上げる。
命に関わるようなものはないかもしれないが、これほどまでの傷を残されてきたなんて……それはどれほど心も傷つけられてきたのだろうか。
「こ……れ」
キィが呆然とした顔で、こちらに視線を寄越したのと同じように、枢機卿も私へと視線を移した。
その視線は、理由を知りたがっているのだろうと予測出来たのだけれど、すぐ終わる内容でもない。
話すか、話さないか……そう思っていれば、更に琴子の身体にまとっている神力の輝きが一層強まる。
「今は治療を優先だ!」
「!」
「はい!」
真の怒号で我に返った枢機卿とキィが、すぐに琴子へと意識を向けて神力を流すのを見て、私も流した。
まずは致命傷ともなりえる内臓の損傷と出血が多い傷だ。
「……どうか……」
切実なアンドリューの願いに答えるよう、懸命に四人で神力を流していれば、致命傷だけは治癒できた。
……まだ手足の骨折までは治らないけれど、既に私は満身創痍で眩暈を起こしていた。
「キィ!」
幼いキィは更に疲労を貯め込んでいたらしく、ふらりと身体が揺らぎ、ウィルがそれを受け止めた。
「……今はここまでで、後は交代しながら様子を見て神力を流していきましょう……自己治癒力に期待して」
枢機卿が唇を噛みしめながら終了を宣言した後、私は身体の力が抜けてデイルに支えられた。
真の方へと視線を向ければ、息を吐いて地面の上に手を広げて寝転がっていた。……皆、神力を使い過ぎたのだろう。
それでも、琴子の致命傷だけでも治って……命が助かって良かった。まだ油断は出来ないかもしれないけれど。
私にはこちらの神力での治療知識はないのに、この大怪我なのだ。擦り傷程度の治療とはわけが違う。
「琴子様……」
アンドリューは琴子にそっと上着をかけて、怪我に響かないよう抱きかかえる。琴子のベッドにでも運ぶのだろう。いつまでも地面に寝かせておくわけにもいかない。
「琴子の古傷って……向こうの世界で……だよな」
この世界で贈り人にそんな事をする人なんて居ない。
真の確信的な言葉に、枢機卿と少し意識のあるキィがこちらを向いた。
「なんか知ってる? って、あんま人の過去を詮索するのは良くないかもしれないけど……」
真も言いにくそうに私へと視線を向けたけれど、気になって当たり前だろう。
私は前に話を聞いていたけれど、あそこまでとは思っていなかったのだから。
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