異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり

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第二章

19.息はあるけれど

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 アンドリューの後に真が続いて走り出し、私とキィはデイルとウィルが側について、後を追った。
 これ以上先は危険だと思うけれど……皆が離れてしまうのも危ない。それに、琴子の事も気になる。
 琴子は無事なのだろうか。無事でいてほしい。

「いやぁ! やめて! 助けて!」
「琴子様!!」
「琴子!」

 悲痛な叫びが響き渡る。
 嫌だ、聞きたくない。
 こんな声、聞きたくない!
 苦しみに染まるような助けを求める声に、私は思わず耳を塞ぎたくなったけれど、今は一生懸命手足を動かして先へと進む事が大切だ。
 いや、いっそ逃げ出したい。
 これが現実でなければ良いのにとさえ思う。

「~~っ!!」
「!」

 どんどん小さくなっていく声。
 悲鳴から呻き声に変わる琴子の声に悲鳴をあげたくなるが、喉がうまく動かない。ただ、息を飲み込むだけで精一杯だ。
 キィの目からは涙が少しだけ溢れたのか、跡がついている。

「琴子!」
「琴子様! そんな!!」

 先行していた真とアンドリューの声が聞こえる。
 琴子を見つけたのだろう。距離はそんなに離れてなさそうだ。
 必死で足を動かして、真とアンドリューの姿を見つけた瞬間、デイルとウィルの声が重なった。

「キィ!」
「見ないで下さい!」

 そう言って、すぐに視界はデイルの背中に覆われたけれど……私は見てしまった。
 アンドリューと真の間にあった、赤い液体にまみれたものを。
 周辺に散らかっている、布の切れ端を。

「こ……とこ?」

 そして、もう声すら出ていない。
 先ほどまであげられていた悲鳴は、ない。
 向こうには大きな蛇のようなものが切り裂かれて倒れているが、ウィルとデイルは、倒されただろう魔物を私達から隠したいわけではないのだ。
 ならば、必然的に見せないようにした、赤い液体にまみれたものは……琴子だろう。

「そんな……」
「まだ息がある!」

 最悪な事を想像して、言葉を漏らし項垂れた時、真の張り上げた声で私は顔をあげた。

「なら回復しないと!」

 ウィルを押しのけて、一番に琴子の元へと動き出したキィ。
 キィは攻撃より回復の方が向いているのかもしれない。いの一番に回復して助ける事を優先している。
 そして私も、デイルを押しのけて琴子の元へと駆けだしたのだが……琴子の姿をしっかりと視界にとらえた瞬間、私は立ち尽くしてしまった。

「うっ」

 キィは口を押えて蹲り、ウィルがその背を撫でた。
 こんなの、ホラー映画とか……サスペンス的なドラマでしか見た事ない。ううん、それでもここまでハッキリと写されてない。
 ……傷だらけで、腕や足があらぬ方向に曲がっていて……見ただけで瀕死なんだと分かった。
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