異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり

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第二章

18.琴子の悲鳴

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「遠距離攻撃かぁ」
「……真も使えるんじゃない?」

 感嘆とした声をあげる真に対して、ぶっきらぼうに答える。
 掌から何かが出たような感じがした。そしたら反動がきた。……銃をうつと反動があるというけれど、こんな感じなのだろうか。
 そしたらビームみたいなものが魔物に当たって倒れた。
 うん、言葉にしたらこんな感じだけれど、自分が倒したという感じが一切しない。夢見心地でしかないのだ。

「剣の方が現実味あるかも」
「せっかくの異世界なのに……」
「あっちの方が強いんだ!」

 熊魔物が倒れた事に少し安堵をして、真と会話をしていたら、ウィルの叫ぶ声が聞こえた。
 そうだ、もう一匹、狼魔物が居る!
 デイルは私から離れるのを躊躇い、ウィルもキィの側に居て、対峙しているのはアンドリューただ一人だけだ。
 牙や爪の攻撃が当たっているのだろう。致命傷にはなっていないが、切り裂かれた衣服から血が滲みでている。

「か……回復……」

 キィは真っ青な顔をしながらも、頑張って集中して神力を調整して回復させようとするが、身体が震えてうまく発動できないようだ。そして真も素早くアンドリューの方へと駆けていく。
 私も、なんとか神力に集中しようとするのだけれど、目の前で血を流している人を見ていると焦る気持ちから、なかなか集中できない。

「アンドリュー! 集中しろ!」

 どうしても琴子の行方が気になるのだろう。
 アンドリューも焦っているかのようで、デイルが声をあげて注意をする。

「くそぉお!」
「駄目だ!」

 狼の爪を薙ぎ払う事が出来なかったのか、アンドリューは受け止める形となった。
 あともう少しで真が到着する……そんな時だったのに。逃げるどころか、避ける事すら出来なくなったアンドリューの肩に、狼魔物は噛みついた。

「ぐぁあああ!!」

 肩から溢れ出る血。
 そんな光景を生で見た事のなかった私は、驚きとショックで呆然としてしまう。キィも同じなのか、それ以上か、その目には涙が浮かんでいた。
 何とか耐えているアンドリュー。その肩へと更に深く食い込む牙を見て、私は自分が息をするのも忘れ、あまりの光景に目を反らす事も出来ず呆然と佇んでいた時だ。

 ――グァアアアアッ!!

 真が素早く狼魔物の間合いに入り込んで、キラキラと白く光る剣をふるい、狼魔物を一刀両断した。
 その断面は何故か焼け焦げたようにもなっているのだが、今はそれより真の凄さに唖然としてしまった。

「真……すご……」
「きゃああああ!!!」
「琴子様!!」

 感動を口にしようとした所で遠くから琴子の悲鳴が響き渡り、アンドリューは肩から血を流したまま、急いで声の方へと走っていった。
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