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第二章
12.琴子の話
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魔物の討伐は明後日になったと通達され、前訓練のようなものとして神力の扱いを学び過ごした午後の時間。
キィは励んでいたけれど、そこに琴子が姿を現す事はなかった。
そして次の日、琴子は私の部屋へとやってきた。
「席を外してもらう?」
「……大丈夫」
二人だけで話せるわけでもないが、せめてデイル達には扉の向こうで待機してもらおうと思ったのだけれど、琴子は首を振った。
大丈夫という人ほど、大丈夫ではなかったりするのだけれど。
「…………」
流れる沈黙。
琴子が話だすまで待つかと、私はお茶をゆっくり飲んで緊張を何とかほぐそうとする。一応一口大のお菓子も用意されているけれど、食べる気にはならない。
「ごめんね。ありがとう。なんか……瑞希には聞いてもらいたいというか、話やすいというか……」
「そうなの?」
そんな事は初めて言われた。
けれど、確かにキィの事は嫌っているし、自由人すぎてというか、カリキュラムが違う真は捕まえにくいし接点も少ない。となれば、残るは必然的に私なのだろうけれど。
「不安だという話は前にしたと思うけれど……」
私は言葉を発して琴子の話を遮らないよう、静かに頷くだけにとどめた。
「元の世界より、こっちの世界の方がマシなの。だけど……怖いのよ」
「……マシ?」
思わず口に出た。
だって、こちらの世界は不便だし娯楽もない。不思議な力みたいなものはあるけれど、生活の質は数段落ちる上に、危険も多くて、平和な現代となんて比べ物にならない。
挙句に身分制度まであって面倒な事この上ない。
そんな私の心を見透かすように、琴子は諦めたような苦笑を零した後、遠くを見つめるかのような目で語り始めた。
「高校生の時に付き合っていた五歳上の彼氏と、高校卒業と同時に結婚してね。その時は幸せを掴んだって思ってたわ」
早っ。
私が今、高校二年生だったから、来年には結婚してたってことだよね……? 早くない?
そこまで思える人と出会えて、付き合えた事。そして結婚という覚悟を決めた事。
幼い覚悟という人も居るだろうけれど、同じくらいの私からしたら、その覚悟を決めるのも相当だと思うのだけれど。そこに幼いとか関係ない。
「そこからずっと専業主婦。仕事なんてした事なくて……離婚したくても出来なかった」
「え?」
たった今、琴子の覚悟を心の中で称えた私なのだけれど、まさかの言葉が出て素っ頓狂な声が出てしまった。
若気の至りだったとか言われるのだろうか。
しかし、そんな理由だけではない気がするのは、未だ思い出せる、こちらの来た時の琴子の姿だ。
キィは励んでいたけれど、そこに琴子が姿を現す事はなかった。
そして次の日、琴子は私の部屋へとやってきた。
「席を外してもらう?」
「……大丈夫」
二人だけで話せるわけでもないが、せめてデイル達には扉の向こうで待機してもらおうと思ったのだけれど、琴子は首を振った。
大丈夫という人ほど、大丈夫ではなかったりするのだけれど。
「…………」
流れる沈黙。
琴子が話だすまで待つかと、私はお茶をゆっくり飲んで緊張を何とかほぐそうとする。一応一口大のお菓子も用意されているけれど、食べる気にはならない。
「ごめんね。ありがとう。なんか……瑞希には聞いてもらいたいというか、話やすいというか……」
「そうなの?」
そんな事は初めて言われた。
けれど、確かにキィの事は嫌っているし、自由人すぎてというか、カリキュラムが違う真は捕まえにくいし接点も少ない。となれば、残るは必然的に私なのだろうけれど。
「不安だという話は前にしたと思うけれど……」
私は言葉を発して琴子の話を遮らないよう、静かに頷くだけにとどめた。
「元の世界より、こっちの世界の方がマシなの。だけど……怖いのよ」
「……マシ?」
思わず口に出た。
だって、こちらの世界は不便だし娯楽もない。不思議な力みたいなものはあるけれど、生活の質は数段落ちる上に、危険も多くて、平和な現代となんて比べ物にならない。
挙句に身分制度まであって面倒な事この上ない。
そんな私の心を見透かすように、琴子は諦めたような苦笑を零した後、遠くを見つめるかのような目で語り始めた。
「高校生の時に付き合っていた五歳上の彼氏と、高校卒業と同時に結婚してね。その時は幸せを掴んだって思ってたわ」
早っ。
私が今、高校二年生だったから、来年には結婚してたってことだよね……? 早くない?
そこまで思える人と出会えて、付き合えた事。そして結婚という覚悟を決めた事。
幼い覚悟という人も居るだろうけれど、同じくらいの私からしたら、その覚悟を決めるのも相当だと思うのだけれど。そこに幼いとか関係ない。
「そこからずっと専業主婦。仕事なんてした事なくて……離婚したくても出来なかった」
「え?」
たった今、琴子の覚悟を心の中で称えた私なのだけれど、まさかの言葉が出て素っ頓狂な声が出てしまった。
若気の至りだったとか言われるのだろうか。
しかし、そんな理由だけではない気がするのは、未だ思い出せる、こちらの来た時の琴子の姿だ。
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