異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり

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第二章

11.各々の反応

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「まぁ、拒否権はない。贈り人としてしっかりと働いてもらう必要があるからな」

 仕事か。
 いや、仕事でも命を投げだすようなブラックな仕事なんて聞いた事もないけれど、ここは異世界。自分の元いた世界が、どれだけ平和だったのかと痛感する。
 言いたい事は言ったと、王太子は部屋を出ていく。

「本当に弱い魔物しか居ない場所なので……」

 そうフォローを残して、枢機卿は見送りに部屋から出て行き、残された私達はしばらく無言のまま座っていたのだが、その沈黙を真が破った。

「まぁ、お互いが力を合わせれば何とかなるんじゃないか? 護衛騎士も居るし、そう怯える事はないと思うよ」
「それはそうだけれど……魔物なんて見た事もないし、恐ろしいとしか思えないでしょ」

 簡単に言い切った真に呆れ、そう返した。
 豹やライオン相手に対峙して戦えるわけもない。それなのに魔物を相手にしろというのだ。無茶ぶりにも程がある。
 というか、私的に小さくて黒いものが視界に入っただけで逃げ惑うのに、そんな大物なんて、もはや見たくもないというのが本音だ。

「私は……やるから」

 キィは、小さい声ながらもハッキリと言葉を言い放つ。その瞳は覚悟を決めていた。
 小学生なのに。否、小学生でも、戦いに立ち向かう強さを持っているのか。

「……」

 その一方で、琴子はただ真っ青になって震えているだけだ。
 贈り人の中で最年長ではあるけれど……言い知れない不安に怯えるのは理解できる。むしろ子どもの頃はあまり物怖じしなかった気がする。
 ……年を取る程に、人は恐怖をも学ぶのだろう。

「俺が率先していきますから」
「なら俺が殿を務めましょう」

 アンドリューが琴子を気遣うよう声をかけ、デイルもそれに答えるが、琴子の顔色が晴れる事はない。
 もう顔色は真っ青を通り越して、真っ白になっている。

「琴子様、お部屋に戻りましょうか」

 今にも倒れそうな琴子を、アンドリューは部屋へと促したが、琴子は立ち上がる事すら出来ないようだ。
 それに伴い、私達も部屋へ戻ろうかと話して、キィにウィル、真と次々に部屋を出ていき、私も後へと続く。

「……瑞希……」
「……え?」

 小さく呟くような琴子の声が耳に届き、私は振り返った。

「……ちゃんと……話したい事があるの……ううん、話を聞いて欲しい」

 真剣な表情。
 きっと、琴子の抱える不安とかだろう。

「分かった。明日にでも時間を作ろう」

 琴子の状態を考えれば今日今すぐというのも心配だからこそ、私は明日を提示する。しっかりと頷く琴子を見てから、私は退室して自分の部屋へと戻った。
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