異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり

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第二章

06.街へと誘う

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「え?」
「ほら行くよー」

 真の意味深な発言。
 真も、琴子のように何かを隠しているのだろうか。……まぁ、人間誰しも心の中に色んなものは抱えているだろうけれど。

「あ、琴子とキィも誘って良い?」

 ふと、琴子もこれから先を見据える為、見聞を広めるのに良い機会なんじゃないだろうかと思い提案する。キィもまぁ、年相応それなりに遊ぶのも必要だろう。

「キィなら朝から護衛騎士ウィルと街へ遊びに行ってるよ?」

 既に遊んでいたか。
 何か最近、ウィルに振り回されているキィをよく見かける気がする。最初の頃はキィに対して子どもの世話押し付けられたと言わんばかりのウィルだったけれど、どちらが子どもか分からないというか……。キィもずっと机に齧りついて学ぶというより、ちゃんと年頃らしく出来ていて安心と言えば安心なのだけれど。
 ならば琴子と思えば、タイミング良く琴子がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

「琴子」
「瑞希……と、真?」

 今から畑にでも行くのだろうか。アンドリューの手には鍬のようなものが握られているけれど、輸入品の商品は待ってくれない。

「遠くの国からの商品を乗せた船が今朝来たらしくて、今から一緒に街へ行かない?」
「えっと……」
「見聞も広められると思うし」

 商品が売れてしまえば、それを知る機会なんて失われてしまうようなものなのだから。
 魔物の恐ろしさは分からないけれど、日本のように激しい輸出入が、この国にはないのだし。多分。今まで住んでいて、こんな情報を真から貰った事もないし。
 しかし、琴子の表情は戸惑いを見せた後、ちらりとアンドリューの方へ視線をうつした後、きゅっと唇を噛みしめた。

「……畑の収穫があるので、遠慮します」
「え、もうこんな機会ないかもしれないのに?」
「失礼しますね」

 私の言葉なんか聞こえもしなかったかのように、琴子はそのまま畑の方へと向かい、アンドリューは少し驚いた表情をした後、琴子の後ろをついていった。
 ……不安だと言うのなら、知る事をすれば良いのに。
 どことなく様子のおかしかった琴子に引っかかりも覚えつつ、琴子の態度に不満もあり、心にモヤッとしたものが広がる。何とも言えない感じだ。

「早く行こうー」
「はーい」

 しかし、そんなのはおかまいなしという真に呼ばれ、私は気分を切り替えた。
 今、考えた所で仕方がない。むしろ今は街を楽しんで色々と知る方が優先だろうと、私はデイルと共に真と一緒に街へと繰り出した。
 そんな私達の後ろ姿を、少し羨ましそうに琴子が見ていた事なんて全く知らずに。
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