異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり

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第二章

03.深夜の訪問者

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「……き……瑞希!」

 誰かの声で起こされるも、辺りはまだ真っ暗だ。
 ……深夜に名前を呼ばれるなんて、きっと空耳だろうと、私は寝返りを打って再度睡眠を貪ろうとするのだけれど……。

「ちょ……起きて」

 夢ではないのか。
 そう思って声の方へと視線を向ければ、ほのかな灯りが灯ったかと思えば、人の顔がそこに浮かびあがった。

「んぎゃ……!」
「しーっ!」

 驚き叫ぼうと思った私の口は問答無用で塞がれ、パニックにもなったけれど、灯りでよく見えた顔は私の見知った人で少しずつ冷静になってきた。

「叫んだら人が集まってきちゃう……」
「いや、夜中に人の部屋へ忍び込むとか、どうしたの。琴子」

 生活魔術を最小限にまで落としただろう、夜中にいきなり現れたら人魂と思いたくなるような、ほのかな灯りを手に居たのは琴子。
 呆れて溜息を吐いてしまうのは仕方ないだろう。

「……少し二人で話せないかなと思って」

 確かに、普段からお互いには護衛騎士がベッタリとついているようなものだから、こうでもしないと完全な二人というわけにもいかないだろう。
 でも離れてくれと言ったら離れてくれるのだが……。
 不安そうな琴子を見ていれば、アンドリューの事が気がかりなのだろうとも思えた。
 ……恵の動向を国へ伝えたアンドリュー。二人で話しているという事すら何か変に勘繰られたくないと思ったのか。それとも、そういった危ない話をしたいのか。
 正直、面倒事には巻き込まれたくはないけれどという願いと共に、どうかただのガールズトークなノリであれと願う。

「とりあえず座る……?」

 最小限の灯りと共に、備え付けられているテーブルと椅子を示し、簡単に水を出す。
 あまりに何かごそごそやっていて誰かに気が付かれても面倒だ。

「………………」

 視線を彷徨わせ、どう切り出そうかと悩んでいる琴子をよそに、少しでも頭をハッキリさせようと、私は水を一口飲む。それにつられるよう、琴子も水を飲むと、覚悟を決めたように私へと視線を合わせた。

「今の生活、どう思う?」
「どう……とは?」

 あまりにも突拍子がなさすぎて、そのまま返してしまう。

「私は……こんな生活に不安しかないの」

 それはそうだろう。
 異世界で、全くもって常識も通じず、今まで学んだ事も通じない。挙句の果てには色々と学ぶ必要もあり、固定観念として植えつけられていた価値観までもが変わるのだ。
 今までの当たり前が、当たり前じゃなくなる。
 分からない事だらけなのだ。

「生きたいと思うけれど、どうして良いのか分からない……」

 うん、だいぶ重い話だった。
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