異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり

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第一章

45.恵02

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「出来た……! これで帰れる筈……!」

 こちらの文字や古代語だけでなく、英語や日本語までも駆使して、自分の思う言語を書いた。そして図形すらも全てに意味を持たせ、異世界へ帰る道すじを作ったのだ。
 否、帰るというのは、また違うかもしれない。
 こちらへと落ちた方法が分からないからこそ、そこを詳しく掘り下げる事が出来なかった。だから私は、錬金術を応用に加えたのだ。

 ――人体の再作成。

 元の世界へ私の身体をもう一度作り上げるのだ。
 ただし、それには物凄い力が必要となる。

「……帰るんだ」

 誰も居ない塔。
 誰も私に近寄らない。
 護衛騎士だと言っていたアイツでさえ、かろうじて食事を運んでくるか、寝に帰ってくるだけなのだ。
 誰がどうなろうと私には関係ない。私は私が幸せであればそれでいい。

「……ここが辺境で良かった」

 瑞希や……琴子みたいに同郷の仲間が居たら躊躇っていたかもしれないけれど、私の心はもう決まっているのだ。
 周囲の精鋭エネルギーを全て使って、この魔法陣を成功させると。
 ……もし、戻れなかったとしても、何もしなかった私を私は許せないでいるだろう。ならば……後悔しない為にも私は発動する。

「樹……今行くからね」

 懸念点はひとつだけ。
 だけど……それでも……樹に会いたい。帰りたい。
 私は、ただ樹の側へ戻る事を祈って、魔法陣を発動させた。









 送って行った後、部屋に入って行く恵を見届けて帰ったのに、何故かその後、消息不明となった婚約者。
 荒らされた形跡なんてなく、ただそのまま恵が居なくなった部屋。結婚に対しても問題ないように思えたのに、逃げるように消えたのかと思っていたけれど、ある日いきなり見つかった。
 一応そのまま残しておいた部屋。
 そこにドスンッ! と何かが落ちるような大きな音がした後に呻き声が聞こえたという事で隣人が管理会社へ連絡し発見されたのだ。

 ――まるでいきなり、そこへ現れたかのように。

「恵……? 恵!」

 連絡を貰って慌てて病院へ駆けつけた俺は、病室に恵の名前を見つけて、安堵の気持ちで駆け寄った。

「ぅあ……ぅ……」
「……恵?」

 恵を見て、俺はそれ以上近寄るのを躊躇った。
 青白い肌、荒れた肌と髪、落ち窪んだ目。そこには恵らしい美貌がどこにも存在せず、かろうじて恵だと分かる程度だ。
 そして、目の焦点は合っておらず、口からは涎が流れ出て、言葉にならない声を発している。

「……恵……」

 俺の問いかけに反応すら示さないソレは、もはや俺の中にある恵とは似ても似つかず……恵と認識する事さえ出来なかった。
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