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第一章
35.消えた人々
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並べられた屋台には、食べ物や商品が置いてあり、道中にも落ちている。そして……服までも。
食べ物はもう腐っていたりはするのだけれど、本当に人だけ消えたのだろうというのがありありと分かってしまう。
「現状維持を命じたけれど、火など危険なものは消してある」
石で作られた鉄板のようなものの上に焼かれた途中の食材。火だけは止められているのだろう。火事になったら全て消失してしまう。
道端に落ちている串焼きは途中まで食されている。きっと、こういったものの片付けもせず、しっかり現状を残してくれているのは理解した。
「人だけ……か。食べ物や衣類そのままに、完全に人体だけ消失した感じだな」
真の呟きに、背筋がゾクリとする。
人だけがそっくり居なくなったように服だけが落ちている様は既に異様だと、言われて初めて気が付いた。
「じゃあ皆で逃げたとか誘拐は……」
「街全部、しかも行商人や領主含めてとは考えられない」
逃げるように、そんなあり得ない言葉を放つ私に、王太子は厳しくともハッキリと否定の言葉を返す。
「消えた、という言葉が一番無難ですね」
あまり考えたくない、考えられない言葉を真がすんなりと放ち、眉間に皺を寄せて苦しそうな顔で王太子は頷いた。
……態度とか私から見れば、どうなんだとか思う所もあるけれど、しっかり民の事は考えてそうなんだよね。そう考えると、いきなり民が消えたという状況は心情的に苦しいだろう。
「……恵って人が生活していた場所は……?」
「あぁ、それなら領主の邸だ。案内する」
キィは何やら考えこんだ後に放った言葉は恵を気遣う……とは少し違った威圧があり緊張感の籠った声色だった。
「いきなりこの場は消えたのですか?」
「いや、何か物凄い光を放っていたと近隣の村から報告はあがっているが……」
真が王太子に色々と訊ねながら、領主の邸まで歩く。
その間にも私達は周囲を見渡して観察というか、この惨状を目の当たりにしているのだけれど、ふと視界の隅に見知ったものを見つけた。
「……あ」
「え……あっ!」
驚き声をあげた私の視線を辿っただろうデイルも、驚愕の声をあげた。
「どうした!?」
「なっ!」
「え!」
声に気が付いた王太子、それにウィルやアンドリューも、視線の先にうつった物を見て、目を見開いて声をあげる。
それは、いつも見ているもの。
白を基調とした、騎士服。そう、今デイル達が着ているものだ。
――贈り人の護衛騎士の服。
つまり、この服を着ていたのは、ここに居ない一人。
辺境へと着ていたロランのものである事は間違いなかった。
食べ物はもう腐っていたりはするのだけれど、本当に人だけ消えたのだろうというのがありありと分かってしまう。
「現状維持を命じたけれど、火など危険なものは消してある」
石で作られた鉄板のようなものの上に焼かれた途中の食材。火だけは止められているのだろう。火事になったら全て消失してしまう。
道端に落ちている串焼きは途中まで食されている。きっと、こういったものの片付けもせず、しっかり現状を残してくれているのは理解した。
「人だけ……か。食べ物や衣類そのままに、完全に人体だけ消失した感じだな」
真の呟きに、背筋がゾクリとする。
人だけがそっくり居なくなったように服だけが落ちている様は既に異様だと、言われて初めて気が付いた。
「じゃあ皆で逃げたとか誘拐は……」
「街全部、しかも行商人や領主含めてとは考えられない」
逃げるように、そんなあり得ない言葉を放つ私に、王太子は厳しくともハッキリと否定の言葉を返す。
「消えた、という言葉が一番無難ですね」
あまり考えたくない、考えられない言葉を真がすんなりと放ち、眉間に皺を寄せて苦しそうな顔で王太子は頷いた。
……態度とか私から見れば、どうなんだとか思う所もあるけれど、しっかり民の事は考えてそうなんだよね。そう考えると、いきなり民が消えたという状況は心情的に苦しいだろう。
「……恵って人が生活していた場所は……?」
「あぁ、それなら領主の邸だ。案内する」
キィは何やら考えこんだ後に放った言葉は恵を気遣う……とは少し違った威圧があり緊張感の籠った声色だった。
「いきなりこの場は消えたのですか?」
「いや、何か物凄い光を放っていたと近隣の村から報告はあがっているが……」
真が王太子に色々と訊ねながら、領主の邸まで歩く。
その間にも私達は周囲を見渡して観察というか、この惨状を目の当たりにしているのだけれど、ふと視界の隅に見知ったものを見つけた。
「……あ」
「え……あっ!」
驚き声をあげた私の視線を辿っただろうデイルも、驚愕の声をあげた。
「どうした!?」
「なっ!」
「え!」
声に気が付いた王太子、それにウィルやアンドリューも、視線の先にうつった物を見て、目を見開いて声をあげる。
それは、いつも見ているもの。
白を基調とした、騎士服。そう、今デイル達が着ているものだ。
――贈り人の護衛騎士の服。
つまり、この服を着ていたのは、ここに居ない一人。
辺境へと着ていたロランのものである事は間違いなかった。
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