異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり

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第一章

34.荒野広がる辺境

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 ガタガタと揺れる馬車。そして野営。街どころか村のような場所でも、宿があるだけ助かるというものだ。
 辺境までの旅路という初めての経験に、身体中が固まってきているようで痛い。ずっと同じ姿勢なわけだし。

「大丈夫?」

 一人元気な真に声をかけられた。

「琴子もしんどそうだけど……」
「平気そうなのはキィくらいか」

 これが若さというものなのか。いや、私も真よりは若い筈なんだけど!?
 キィはずっと本を読んでいて、車酔いならぬ馬車酔いはしないのかと心配にもなるが、ふと恵の姿がキィにかぶさった。
 この道のりを恵も向かったのだ。そして、あの恵の事だから、馬車の中でも色々と研究していただろう。なんて想像をして微笑ましい気持ちが出てくるけれど、すぐ恵の安否が心配になる。
 王都からどんどん離れるにつれ、自然が多くなっていく辺境までの道のり。

 山や森を抜け、何泊か繰り返したのち、やっと到達した辺境は、言うなればただの田舎にしか見えなかった。
 というか、荒野のようだ。
 古びた建物が並び、周囲の土地はやせ細っているのがよく分かる程にヒビ割れた大地。

「ここが……辺境?」
「いや、本来なら自然豊かな土地で、この辺りは森林があったんだ」

 私の漏れ出た言葉を聞いた王太子が説明をし、その言葉に琴子やキィは息を飲み込んだ。
 ……想像以上と言って良いのかもしれない。否、想像なんて全く出来ていなかったのだろう。
 人……そして草木まで消えたという現象を。
 今一度、周囲を見渡す。建物の辺りから、目視出来る範囲まで荒野のようなものが広がっている。距離としては5キロあるだろうか。
 本来なら……ここに森林が……。
 ゾッと背筋を凍るものが駆け抜ける。琴子やキィも同じなのか、周囲を見渡しては呆然としながらも両手で自分自身を抱きかかえるようにしていたのだが、そこに平然とした声が響く。

「あれ? 行かないの?」

 真だ。
 どこまでもマイペースなのか、それとも説明を聞いた所で何も思わないのか。

「……まだ神力の扱いも万全ではないと思いますが、どうか消えた原因を探る為に手助けお願いいたします」

 私達が躊躇っているのかと思ったのか、枢機卿は深々と頭を下げる。その横で王太子も頼むと小さく呟き頭を下げた。
 ……王族は、そう簡単に頭を下げてはいけないのでは? それとも贈り人ならば問題ないのか?

「あの、手伝いますから!」
「行こう」

 琴子は焦ったように頭を上げさせ、キィは決意した目で真の後を追い辺境の街へと向かっていく。
 そして私も……恵がどこへ行ったのか調べる為にも、街へと向かう。
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