異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり

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第一章

31.自分の得意な事を探す

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「…………」
「…………」

 枢機卿と二人、机の上に置かれたものへと視線を落としながら、無言の空気が流れる。

「これはこれで……個性があって良いのでは……?」

 後ろから、ひくついた声を出したのはデイルだ。

「変な慰めは要らないから」

 私は溜息をついて、きっぱりと返した。
 だって、机の上にあるのは刺繍とは言い難い、穴ばかりが開いて申し訳程度に糸が縫われているハンカチ。そして、編んだとは言いにくい程に、ただ絡まっているだけの糸が玉のように転がっている。

「……人には得て不得手がありますので……」
「不器用です。えぇ不器用ですとも」

 もはや不器用の域を超えていると思うのだけれど。
 どうやったらこんな物体が生み出されてしまうのか。
 この世界でも手に職程、自立に有利なものはないと思われる。
 ……私は何が出来るのか。何を得意とするのか。
 探していかねばと心にとどめた。






「あーっはっはっはっは!」
「いや笑いごとじゃないからね!?」

 あれから、真とはたまに街を散策する中となった。
 やはりそれなりに休息というか気分転換は必要だ。
 一人で居るより二人のが楽しいよねと、快く承諾してくれる真に感謝だ。

「いや、しっかし編んでて毛玉が出来るとか……それ逆にどうやるの?」
「私が聞きたい……」

 そこまで笑わなくても良いじゃないかと思うけれど、それだけ変な物を生み出した自覚があるからこそ、強く言えない。

「料理や掃除とかで良いんじゃないの?」
「調味料とか、まだ分からないんだよね……食べてみたところで、すぐに思い浮かばないというか」
「あー……醤油や味噌みたいな?」
「そうそう!」

 両親を早くに亡くしているからこそ、家の事は一通りできる。出来ると言っても……それは現代日本での話だ。
 生活魔術を使った掃除に、生活魔術を使った料理。掃除道具は見て、大体理解はできるけれど、調味料に関しては別だ。
 ……言う程、調味料もないのだけれど。

「醤油や味噌が欲しい」
「それはそう」

 もう少し、濃い味付けのものが欲しい。出来れば発酵食品で。
 それは完全に無駄だと思うけれど、実際あるものだけで何とか出来ないだろうかとは思う。

「次は調理場で遊んでみれば良いのに。意外と皆、良い人達で色々教えてくれるよ」
「そう簡単に言うけど……ん?」

 真の言葉に目を見開いた。
 その言葉はまるで、既に調理場へ行っているようなものなのだから。
 信じられない者を見るような目で真を見ていれば、真は首を傾げて肯定の言葉を口にした。

「遊びに行っては色々作ってるよ?」

 自由人すぎる真が居た。
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