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第一章
25.危険因子
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「ならばしっかりとメグミ様を護衛して見ておくように」
暗に監視しろという意味を込めているのだろう。見ておくの言葉を力強く言い放つ王太子不信感を抱く。
未だに納得していない顔をしているロランを後目に、恵は平然とした顔をしている。
「で? いつ出発するの?」
「準備が出来次第、いつでも」
そんな言葉にチラリと外へと視線を向ければ、何台も馬車が用意されており、明らかな荷馬車も見えた。
多数いる兵士は辺境までの護衛だろう。
王太子、手際よすぎる。というか、既に王都では決定して来たという事か。
「ならすぐ準備をするわ」
メグミは今一瞬の時間すら惜しいと言わんばかりに、退室して行き、憎々し気な表情をしたロランが後を付いて行く。
部屋に残されたのは、何とも言えない空気。だけれど、それを破ったのは王太子だった。
「これで危険因子を遠ざけられたか」
「殿下!?」
呟いただけだろう、とても小さい声だったのだけれど、静寂が包んだ空間では思った以上に皆の耳へと届いた。
枢機卿は声をあげ、私達は訝し気な目を王太子に向けた。
「危険因子とは、どういう……?」
「邪魔って事ですか?」
琴子が怯えながら訊ねた声に続き、私も率直な意見を口にした。
帰りたいと願う事、その為に執着する事の、どこが危険因子なのか。そこまで言われる程のものなのか。
確かに恵の頑固さは凄かったと思うけれど……故郷を恋焦がれる事の何が悪いというのだろうか。
「あ……いや、贈り人の力は人知を超えるもので、自覚なく神力を扱われる事は危険なのだ」
焦るように王太子は言葉を紡ぐ。確かにそれは一理あると小さく頷いてしまう。
人知を超えた力というのは、まだ分からないし使えない。実感なんて未だに皆無だから自覚もないけれど、私達の神力は、それだけのものなのだろう。
……今まで軽々しく使用していたけれど、考えた方が良いのかもしれない……?
と言っても、そこまで大したことはしていないし、教えられた事を実行するくらいだ。
「君達にも思想的なもので影響してしまう懸念がある為、遠ざけさせてもらうんだよ」
「大変申し訳ありません。しかし、過去には国を滅ぼしかけないほどの力を持ったものも居たので、その事だけはご留意下さい」
そこまで言われて、ハッとして琴子と目を合わせた。
キィは知らないからこそ、真剣に王太子の話を聞いているだけだ。
――恵は問答無用で力を使って実験していた。
帰る、ただその為だけに。
魔術や神力、魔法陣と問わず、実験のように色々な事を繰り広げていたのだ。
暗に監視しろという意味を込めているのだろう。見ておくの言葉を力強く言い放つ王太子不信感を抱く。
未だに納得していない顔をしているロランを後目に、恵は平然とした顔をしている。
「で? いつ出発するの?」
「準備が出来次第、いつでも」
そんな言葉にチラリと外へと視線を向ければ、何台も馬車が用意されており、明らかな荷馬車も見えた。
多数いる兵士は辺境までの護衛だろう。
王太子、手際よすぎる。というか、既に王都では決定して来たという事か。
「ならすぐ準備をするわ」
メグミは今一瞬の時間すら惜しいと言わんばかりに、退室して行き、憎々し気な表情をしたロランが後を付いて行く。
部屋に残されたのは、何とも言えない空気。だけれど、それを破ったのは王太子だった。
「これで危険因子を遠ざけられたか」
「殿下!?」
呟いただけだろう、とても小さい声だったのだけれど、静寂が包んだ空間では思った以上に皆の耳へと届いた。
枢機卿は声をあげ、私達は訝し気な目を王太子に向けた。
「危険因子とは、どういう……?」
「邪魔って事ですか?」
琴子が怯えながら訊ねた声に続き、私も率直な意見を口にした。
帰りたいと願う事、その為に執着する事の、どこが危険因子なのか。そこまで言われる程のものなのか。
確かに恵の頑固さは凄かったと思うけれど……故郷を恋焦がれる事の何が悪いというのだろうか。
「あ……いや、贈り人の力は人知を超えるもので、自覚なく神力を扱われる事は危険なのだ」
焦るように王太子は言葉を紡ぐ。確かにそれは一理あると小さく頷いてしまう。
人知を超えた力というのは、まだ分からないし使えない。実感なんて未だに皆無だから自覚もないけれど、私達の神力は、それだけのものなのだろう。
……今まで軽々しく使用していたけれど、考えた方が良いのかもしれない……?
と言っても、そこまで大したことはしていないし、教えられた事を実行するくらいだ。
「君達にも思想的なもので影響してしまう懸念がある為、遠ざけさせてもらうんだよ」
「大変申し訳ありません。しかし、過去には国を滅ぼしかけないほどの力を持ったものも居たので、その事だけはご留意下さい」
そこまで言われて、ハッとして琴子と目を合わせた。
キィは知らないからこそ、真剣に王太子の話を聞いているだけだ。
――恵は問答無用で力を使って実験していた。
帰る、ただその為だけに。
魔術や神力、魔法陣と問わず、実験のように色々な事を繰り広げていたのだ。
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