異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり

文字の大きさ
上 下
24 / 73
第一章

24.辺境へ送られる

しおりを挟む
「贈り人メグミ! あなたには辺境へと行ってもらう!」

 枢機卿と贈り人達、そしてそれに連なる護衛騎士達が集められた場で、王太子殿下は声高々に宣言した。
 辺境……? 辺境って、そのままの意味だよね?
 というか、贈り人としての力は国にとって有益なものではないのかと、頭の中を疑問符が駆け巡る。

「お……王太子殿下! 発言をお許し下さい!! 贈り人相手にそれは……聖女候補でもありますし!」

 必死の形相で異議を唱えたのはロランだ。

「しかし、メグミは帰る事にしか興味がないと聞く。マナーの授業は受けず、ずっと力を磨くだけならば、辺境の地でのびのびとしてもらった方が良いのでは?」
「しかし、同郷の者達と切磋琢磨をしていればこそ……」
「元の世界へしがみ付いているのもメグミのみと聞く……それは、あまりにも危険ではないか?」
「それは……」

 王太子の言葉に必死で食いついていたロランだが、ぐうの音も出なくなった。
 良い言葉で飾っているようだが、そんなに帰りたいと願うのは駄目な事だろうか。いや、国にとって都合良く扱えないから……か?
 ロランの態度から、辺境へ行く事はあまり良くない事に思える。

「……別にそれでいいけど」
「メグミ様!?」

 手を口にあてて、しばらく何かを考えこんでいた恵は、小さく頷いて発した言葉にロランが驚きの表情を見せた。

「あなた辺境なんて、ただの田舎ですよ!?」
「私は聖女になりたいわけではないから。学べるならどこでも良いわ」

 必死に止めようとするロラン。それをものともしない恵。
 恵は帰る事という一択にしか重きを置いていないから、田舎や街とか、娯楽や食事なんて関係ないのだろう。どんな言葉にも靡かない。

「おぉっ! メグミ様は物分かりが良い。辺境でゆっくりしていただけば良いので」

 にこやかな王太子。苦痛な表情をしているものの、止める事のない枢機卿。
 ……枢機卿でも止められない事なのか。
 元の世界へ帰りたいという思いは、そんなにもいけない事なのだろうか。

「そんな……くそ! こんな筈じゃ!」

 ロランは納得いかないと、口調が荒く険しい表情となる。
 それを王太子は見逃さなかった。

「……何だ? 不満か? ロラン・コントラ―侯爵令息」

 ビクリとロランは身体を揺るがす。
 ロランは護衛騎士だ。国に仕えている身だからこそ、王太子に逆らえる筈などない。

「それは……」
「護衛騎士の役目を放棄するとでも……?」
「っ!」

 自分の仕事を放りだすのかと、そういう事なのだろう。
 ロランは悔しそうに唇を噛みしめた後、いいえと小さく呟いた。
しおりを挟む
ツギクルバナー

あなたにおすすめの小説

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

運命の改変、承ります

月丘マルリ(12:28)
恋愛
 凶悪な魔術師を倒した聖騎士は、最後に不死の呪いをかけられ、呪われた英雄と呼ばれるようになった。彼は呪いを変えることができる魔女のもとへ訪れる。魔女はいう。「呪いを緩和するために、生贄となる花嫁が必要だ」と。呪われた英雄と魔女の婚活が始まった。  お引越し。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

影の聖女として頑張って来たけど、用済みとして追放された~真なる聖女が誕生したのであれば、もう大丈夫ですよね?~

まいめろ
ファンタジー
孤児だったエステルは、本来の聖女の代わりとして守護方陣を張り、王国の守りを担っていた。 本来の聖女である公爵令嬢メシアは、17歳の誕生日を迎えても能力が開花しなかった為、急遽、聖女の能力を行使できるエステルが呼ばれたのだ。 それから2年……王政を維持する為に表向きはメシアが守護方陣を展開していると発表され続け、エステルは誰にも知られない影の聖女として労働させられていた。 「メシアが能力開花をした。影でしかないお前はもう、用済みだ」 突然の解雇通知……エステルは反論を許されず、ろくな報酬を与えられず、宮殿から追い出されてしまった。 そんな時、知り合いになっていた隣国の王子が現れ、魔導国家へと招待することになる。エステルの能力は、魔法が盛んな隣国に於いても並ぶ者が居らず、彼女は英雄的な待遇を受けるのであった。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...