異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり

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第一章

21.追い出されました

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 驚きと恐怖からだろうか。キィの身体が一瞬ビクリと揺れた後、堰を切ったかのようにキィは大声を上げて泣き始めた。
 それを見ると年相応に思える。
 どれだけ強がろうと、子どもは子どもなのだと。

「あー! もう煩い! 全員出ていって!」
「え」

 ブチ切れただろう恵が、大声を張り上げる。
 もはやとばっちりでしかない私は素っ頓狂な言葉をあげてしまう。

「折角今、新しい事を思いつきそうだったのに! 邪魔! 出てけ!」

 問答無用で追い出されるかのように、ロラン以外の全員は図書館から叩きだされてしまう。

「全く……私は部屋に戻るわ」

 興を削がれたという感じで、琴子は自分の部屋へと戻っていく。
 それにアンドリューも連なる形で後を追う……のだけれど、一瞬だけ図書館の方へ侮蔑めいた厳しい目つきを向けた。

「あー、よしよし」

 その視線が気になったけれど、キィは泣き止むどころか更に声をあげており、真が必死にあやしている。
 ……子どもをあやした事なんてないのだけれど。
 どうしたら良いものかと思うものの、このまま放置して部屋に帰るという事も心情的に出来ない私は、ただ付き添っていた。

「メイドに言われて様子を見に来たんだけど……何があった?」

 あー、やっぱりか。
 真を呼んできただろうメイドは、直ぐまたどこかへ行った。枢機卿という言葉が聞こえたので、今度は枢機卿でも呼んでくるのだろう。

「実は……」

 私は今までの事を説明した。勿論、最初から。
 キィの誤解を解く為、キィに聞かせるという意味も込めて。

「へぇ、面白い事してるのなー」

 説明を聞いて声を上げたのはウィルだった。
 その目に好奇心を宿し、声は喜々としている。そこはまだ幼さが残る年相応の少年と言ったところか。
 ……まぁ、好奇心が勝るのは私も分かるけれど。

「でも生活魔術って、そんな難しいか? キィは見事に使いこなしているけど」
「え? ……お湯も、灯りも?」

 私の言葉に、ウィルは何度か頷く。
 魔法陣に頼って何とか一人自立出来ているというのに……キィはその全てを自分で賄えるという事か!?

「凄いじゃないか」
「……ほんと?」

 真は純粋に褒めて、キィの頭を撫でまくる。
 キィも少し落ち着いたのか、まだしゃくりあげているものの涙は収まってきている。
 誰も出来ていない事を成し遂げているという喜びも溢れているようで、少し笑顔も見えた。
 ……そういえば、真は一体今まで何をしていたのだろう。キィと同じように勉強でもしていたのだろうか。

「キィ様!? ミズキ様! マコト様!」

 たずねたかったけれど枢機卿が来た事により、この場は解散となった。
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