異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり

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第一章

14.生活に慣れた頃

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「そういえば識字率とは、どのくらいなのですか?」

 そのまま出て行くのかと思えば、琴子は枢機卿にそんな事を聞いた。
 全員なのでは? という考えが頭に過ったけれど、それは教育の環境が整っている国だけである事を思い出す。そうでない子ども達というのは、異世界でも居た筈だ。
 日本でだって、戸籍のない子どもという話を聞いた事もある。
 当たり前に受けられていた教育……その背景で、それを当たり前ではない人も居るという現実。

「そうですね……王侯貴族、あとは平民でも大手商会など裕福な家。そして神殿で働く者達……ですかね」

 少なっ!
 それもう平民は学ぶ場がないと言っているようなもので……役職があるような人でしか文字を理解していないという事だ!
 人口は平民の方が多いだろうに、パーセントで考えると全体のどれくらいになるのだろうか。
 学べる幸せ。自立したい私にとって、それは有難い。

「なら頑張れば優秀な部類に入るのね」
「すご……」

 琴子はどこを目指しているのだろう。
 思わず口から出てしまった言葉を聞いて、琴子はこちらを見たかと思えば、一瞬だけ憎悪のような……だけど、どこか悲しそうな表情を見せた。

「あそこに比べればマシだもの」
「あそこ……?」

 それは……。
 私はその先を促さず、琴子も言う事なく、食堂を出て行った。
 だって、それが指し示すのはどう考えても異世界、私達が暮らしていた世界に他ならないのだから。
 特に関わる気もない、心を許す気もない相手の事情なんてどうでも良いだろう。
 まずは私がこの世界での生活に慣れる事が最優先事項なのだから。





 一ヵ月も経てば生活もそれなりに慣れ、生活魔術もほとんどが意のまま使える位にはなった。……ただし食事マナーだけは厳しいけれど。食器の音はどうしても出る!

「……あれ?」
「あれは恵様ですね」

 夕食を終えて部屋へ戻ろうとした時、通路の向こうに大量の本を抱えた恵を発見した。ロランもしっかりと持たされている書物はひとつひとつが分厚く、辞書を思い起こす。
 ……あれだけの本を読める程、文字を覚えたというのだろうか。
 マナーの時間を全て勉強に当てたとしても、この短期間だ。恵は、とても頭が良いのだろう。仕事も順調だと言っていたし。

「瑞希様?」

 全くこちらに気が付かない恵は、ただ真っすぐ歩いて行く。
 どこに行くのだろう? 何をしているのだろう?
 純粋な興味にとらわれた私は恵の行った先へと着いていく。
 恵は一度外へ出て、別の建物に入って行った。確か、そこも最初に案内をされた所で、図書館と言われていた場所だ。
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