上 下
6 / 8

06.

しおりを挟む
息が詰まる
息が詰まる
息が詰まる

「じゃあ後は二人の時間にしてもらおうかしら」
「リズ様?」

思わず口から出た言葉に私自身が驚く反面、何となく腑に落ちた。もう見たくないと言う思いもあるけれど、息が詰まる。窮屈な空間でしかないのだ。
泣いて、泣いて、泣いて、悔しくて。
好きで、好きで、好きで、大好きで。
ダレンに対しての気持ちが嘘だという訳ではない。決して嘘ではないのだけれど……
私に対して何か粗相してしまったのか、気持ちを害してしまったのかと心配しているサラ様に対して、笑顔を向けようとしたのだけれど……

「お義姉様!?」
「リズ様!!」
「え……」

ハラハラと、目から涙がこぼれ落ちる。完全に無意識に出てきていた涙だけれど、何とか止めようとするも次から次へと溢れてくるばかりで、一向に涙が止まる事がない。
慌てたようにダレンがハンカチを差し出してくれて、サラ様は暖かいミルクティーと蜂蜜をメイドに頼んでいる。二人が私を心配して慌てている様子が何か嬉しくて、心地よくて、涙を流しながらも少しだけ笑みが溢れる。

「お義姉様?」

少し怪訝そうな表情をしながらダレンが声をかけてくる。そうね、私、ダレンにこんな姿を見せた事ないもの。
いつもいつも、一番良い私を見せる事しかしてこなかった。嫌われたくない……ただそれだけで……素の私を見せて愛される努力のようなものは一切してこなかった。
ダレンが何か粗相をしたら嫌いになってしまうかもしれない、それはきっと……愛情ではなくて……。

「リズ様……お淋しいのですか?」

心配そうに、しかしおずおずとサラ様がそんな事を言う。
ガラルが居ない事をダレンから聞いているのだろう。私達は仲の良い婚約者と言う事も知っている筈だ。
だからこそ、こうやって二人の逢瀬に私も呼んでくれていたのだろうか。サラ様の優しさにダレンも惹かれたのだろうか。
じーっとサラ様を見ていると、慌てたのかサラ様がカップに手をあてて紅茶をこぼしてしまう。

「失礼致しました!」
「サラ!火傷はない!?」

謝罪するサラ様に対し、何よりも身の安全を気にするダレンは、予備だろうハンカチで素早くサラ様の手を拭いている。
受け入れ、許し、愛する。
きっと私は……

「そうね……ガラルに会いたいわ……」
「会いに行けば宜しいではないですか」
「会いに行きましょう」

そう呟いた私に対して、二人は力強く肯定して背を押してくれた。
会いに……行っても良いわよね……。
確かめても……良いわよね……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません

Rohdea
恋愛
──私は“彼女”の身代わり。 彼が今も愛しているのは亡くなった元婚約者の王女様だけだから──…… 公爵令嬢のユディットは、王太子バーナードの婚約者。 しかし、それは殿下の婚約者だった隣国の王女が亡くなってしまい、 国内の令嬢の中から一番身分が高い……それだけの理由で新たに選ばれただけ。 バーナード殿下はユディットの事をいつも優しく、大切にしてくれる。 だけど、その度にユディットの心は苦しくなっていく。 こんな自分が彼の婚約者でいていいのか。 自分のような理由で互いの気持ちを無視して決められた婚約者は、 バーナードが再び心惹かれる“真実の愛”の相手を見つける邪魔になっているだけなのでは? そんな心揺れる日々の中、 二人の前に、亡くなった王女とそっくりの女性が現れる。 実は、王女は襲撃の日、こっそり逃がされていて実は生きている…… なんて噂もあって────

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

処理中です...