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最後まで諦めたくないという思いもあるけれど、靄に包まれている状態では振り払うどころか身動きすらできない。
だけど、二人を巻き込みたくない。

「いやぁあああ!!!!」
「奈美さん!!!」

二人の叫び声が聞こえた……かと思ったら、いきなり辺り一帯が眩い光に包まれる。
思わず目を閉じると、身体に纏わりついている感覚もなくなった。瞼の裏にうつる光が薄らいでいったタイミングで、恐る恐る目を開けると、そこは見慣れた白い空間だった。

「え……」
「これ……は」
「マジかよ……」

一瞬、今何がどうなってるのか分からなくなって、思わず漏れただけの声となった私とは違い、亜美は驚き、勇さんに関しては頭を抱えている。
何が何だか分からなくて、私は思わず周りをキョロキョロ見渡してしまうが、視界に映るのは変わらず、延々に続くと思われる白く覆われた空間だけだ。
輝くかのような空間に、自分の身体を見つめると、纏わりついていた黒いものがなく、そこで思わず安堵の息を漏らすと、ガッと力強く腕を掴まれて思わず身体が跳ねる。

「お姉ちゃん……」

腕を掴んだのは亜美で、安心したかのような、悲しんでいるかのような、何とも言えない顔でこちらを見ていた。
それに気が付いた勇さんは、勇気づけるかのように亜美の肩にポンと手をおいた。

「私が……やったの……」

少し時間が経った後、ポツリと呟くように亜美が口をあけた。
私から視線を外したまま、バツが悪そうに、亜美は言葉を続けた。

「お姉ちゃんは……あの日、寿命を迎える筈だったの……」

続いた言葉は、私にとって予想外の言葉でもあった。
確かにその時は、死ぬ気でいた。けれど今は……

「え……でも生きてる……?」

実際、病院で横たわる私は生きていて、死んでいないからこそ死神にもなれない中途半端な存在だ。
亜美の言葉が足りないところは、勇さんの補足を入れながらも説明してくれた。
曰く、私はあの日、予定通りに見事歩道橋から身を投げるんだそうだが、まだそこでは生きていて、突然の落下物に対応出来なかった車に轢かれて命を落とすというのが本来私が進む決められた寿命であり未来だったのだと言う。
それを、亜美が死神の法に反して魂をとって助けたそうだ。魂を取り出しやすくする為に歩道橋の階段で滑らせたと……つまり、それがなければ私は見事に身を投げていたわけだ。
今聞くと、その時とは全く違う価値観と視野で私は自分の事を見る事が出来ている気がする。助かったと思う反面、死んでいたならば勇さんと一緒に居られたのに、という思いは勿論ある。
今みたいな中途半端な存在だからこそ、戻らなくてはいけなくて。記憶も消えて……。

「こんな事になると思わなかったの」

そう言う亜美の目には涙が浮かんでいた。
落ち着いてもらったら生きてもらうつもりで。姉妹の慣れあいをしてしまったら自分が寂しさに襲われそうだから勇さんに私の世話を頼んだと。
まさか勇さんとの事で、戻らない覚悟を決めてしまうと思わなかったと。

「普通に……死んでいたならば……」

私のその呟きに、ビクリと亜美の肩が揺れる。
恨みはないとは言い切れない。死んでいたら……死んでいたら私は勇さんと一緒に居る道があったのだ。でも……あのまま死んでいたら……?
私は勇さんと一緒に居たいと思っていただろうか……?
死神になれる程の未練が私にあったのだろうか……?
結局、今この状態だからこそ思うのであって、当時そのまま、その道を選んでいたら今あるこの感情が生まれているかどうか分からないのだ。

「死んでほしくなかったの!助けるつもりで魂を抜いたの!」

私のそんな思いを知るわけではない亜美は、そう叫ぶ。
そのまま寿命を迎えて死んでしまうのではなく、魂を一時的に抜いて死から免れるようにしたと。

「お願い……悪霊にならないで……」

涙を流しながら懇願する亜美は、昔の面影があって、なつかしさに胸が締め付けられる。
どんな思いで亜美は法を犯したのだろう。
どんな思いで私を助けたのだろう。
どんな思いで…………

そこで私は気が付いた。
死神は未練のある魂がなるものだと。だとしたならば、亜美の未練は……
……この七年、亜美はどんな思いで残してきた家族を見ていたのだろう……
私は溢れてきた涙を拭う事なく、亜美を力強く抱きしめた。

七年という年月を埋めるような抱擁を――

生身のような温かさはないにしても、その心にある隙間を埋め、心を寄り添いあわせるように……。
まだ幼かった妹は、どんな思いで死神をしていたのだろうと、それを思うと私も胸が痛んだ。
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