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思い出が欲しい。
例えどんな選択をして、どんな結末が待っていようと。
ただただ”今”を大切にしたいんだ。
今を積み重ねて
選択を積み重ねて
未来が作られているのなら、大切なのは“今この瞬間”でしかなくて
どうなるか分からない未来より、確実に今この手にしている幸せの方が大切で
――ただ、それが続くものではないだけ――
――記憶にすら残らないだけ――
幽体だからこそ、ずっと海の中で遊んでいられる。息苦しさもなければ、衣服が海水を吸って肌に張り付く事も、重さをもって溺れる事もなく、続くサンゴ礁を眺めながら思考は動く。
生きている時に来る事があるのだろうか、否、来れるのだろうか。
生きる為に働くのに、働いているからこそ動けない事もある。
お金と時間と……バランスがなかなか取れないというのはネットでもよく見る情報だった。ならば自分はどうなるのだろうかという不安に襲われた事もある。
実際、働けないからこそ家から出る事も叶わなかったから、色々情報を集めたものだ。働いていたら遊ぶ時間がなくなろうとも、そんなの関係ないとすら思っていた。
「綺麗だね」
穏やかに、のんびりと勇さんは色とりどりの魚を近くで眺めながらそう言った。
今日は勇さんが私に付いていてくれて、アキがまた一人で仕事をしているらしい。
幻の大陸と呼ばれる巨大なサンゴ礁群。
勇さんは何を思い、見ているんだろう。焼野原、戦争。死が身近にあった時代とは裏腹に、こんなにも綺麗な自然が目の前に広がるのだ。
「勇さんは、死神になって後悔はなかったの?」
ふと、そんな言葉が口についた。今に産まれていたら、なんて思わなかったのかな、なんて単純な考えでしかないけれど、それでも疑問だったのだ。終戦から平和な時代へ、その移り変わりを見ていて何も思わなかったのかと。
「ないかな」
ハッキリと勇さんは口にした。優しい微笑みで、海中から水面を見上げる。
「あの時代があったからこそ、今この時代があると思ってる」
しっかりと、力強く言われた言葉に、時代も生き方も同じなのかもしれないと思える。
それこそ、時の政治が左右する時代になるけれど、色んな選択が積み重なり、結果を生み、それが未来に繋がっていく。
政治に関しても、成人すれば選挙権を得て、私達には選択という責任がついてくるのだ。選択に責任があるなんて、それこそ学校に行ってるだけだったら何も気が付かなかっただろう。
世の中は広く、知らない事が多く、自分の生きている小さな世界で、少ない視野で、凝り固まった価値観で、全てを判断していたら何てもったいない事なのだろう。
批判する事は簡単で、だけどその善悪も正否も、自分の中だけで決めてしまえば、本質は見極める事が出来ないだろう。
「勇!!」
魚と一緒に泳ぎながらサンゴ礁を巡っていると、切羽詰まったかのようなアキの声が聞こえた。
どうやら大きな事故があったらしく人手が足りないと。そもそも寿命と言うのは決まっているのではないのかと頭を傾げると、突発的な事故等に関しては寿命が書き換えられる事もあるとか。
人は寿命が決められているけれど、それこそ選択を積み重ねて未来を創る過程で、早まる事もあるらしい。
「ちょっと行ってくる」
「あ、じゃあ私を病院へ連れていって?」
勇さんも急ぎアキの後を追おうとしているからこそ、私はそう申し出た。
知らない場所より知って動ける場所の方が良いだろう。
勇さんは一瞬、驚いたように目を見開いていたが、すぐに顔を正すと、しっかりと頷いて私の手を取ってくれた。
そんな私達を見ながら、アキは事故現場へ戻っていくのだろうが、とりあえず向かったであろう白い空間へ続く。
本当に便利だな、なんて思ってしまえる。これが現世からも繋がるならば……なんて思うけど、そうなれば死者といつでも会えるという事になるのかと苦笑する。
いや、それが七年前にもしあったのならば……なんて、また、ありもしない事を考えて思考の沼にはまりそうだ。
――でも、もう私は――
勇さんに送ってもらった病室で、私は両親を向き合う。と言っても、向こうからは見えないし認識すら出来ない。
七年は長かったんだ。
実際今こうして存在を認識されていなくても、悲しいとも悔しいとも寂しいとも思わない程、これが当たり前だったんだ。
そこにあるのは人形で、演劇をしていると言われても理解が出来る。
もしくは……そこに居るのが亜美だと言われたら……強く納得すら出来るだろう。
「ごめんなさい」
一方通行だとしても、私だけは両親にきちんと向き合い、頭を下げた。
「私という存在を作ってくれてありがとう」
だから、勇さんと出会えた。
辛かった
苦しかった
産まれてきたくなかった
生きている事が嫌だった
だけど……だからこそ、出会えたんだ。
例えどんな選択をして、どんな結末が待っていようと。
ただただ”今”を大切にしたいんだ。
今を積み重ねて
選択を積み重ねて
未来が作られているのなら、大切なのは“今この瞬間”でしかなくて
どうなるか分からない未来より、確実に今この手にしている幸せの方が大切で
――ただ、それが続くものではないだけ――
――記憶にすら残らないだけ――
幽体だからこそ、ずっと海の中で遊んでいられる。息苦しさもなければ、衣服が海水を吸って肌に張り付く事も、重さをもって溺れる事もなく、続くサンゴ礁を眺めながら思考は動く。
生きている時に来る事があるのだろうか、否、来れるのだろうか。
生きる為に働くのに、働いているからこそ動けない事もある。
お金と時間と……バランスがなかなか取れないというのはネットでもよく見る情報だった。ならば自分はどうなるのだろうかという不安に襲われた事もある。
実際、働けないからこそ家から出る事も叶わなかったから、色々情報を集めたものだ。働いていたら遊ぶ時間がなくなろうとも、そんなの関係ないとすら思っていた。
「綺麗だね」
穏やかに、のんびりと勇さんは色とりどりの魚を近くで眺めながらそう言った。
今日は勇さんが私に付いていてくれて、アキがまた一人で仕事をしているらしい。
幻の大陸と呼ばれる巨大なサンゴ礁群。
勇さんは何を思い、見ているんだろう。焼野原、戦争。死が身近にあった時代とは裏腹に、こんなにも綺麗な自然が目の前に広がるのだ。
「勇さんは、死神になって後悔はなかったの?」
ふと、そんな言葉が口についた。今に産まれていたら、なんて思わなかったのかな、なんて単純な考えでしかないけれど、それでも疑問だったのだ。終戦から平和な時代へ、その移り変わりを見ていて何も思わなかったのかと。
「ないかな」
ハッキリと勇さんは口にした。優しい微笑みで、海中から水面を見上げる。
「あの時代があったからこそ、今この時代があると思ってる」
しっかりと、力強く言われた言葉に、時代も生き方も同じなのかもしれないと思える。
それこそ、時の政治が左右する時代になるけれど、色んな選択が積み重なり、結果を生み、それが未来に繋がっていく。
政治に関しても、成人すれば選挙権を得て、私達には選択という責任がついてくるのだ。選択に責任があるなんて、それこそ学校に行ってるだけだったら何も気が付かなかっただろう。
世の中は広く、知らない事が多く、自分の生きている小さな世界で、少ない視野で、凝り固まった価値観で、全てを判断していたら何てもったいない事なのだろう。
批判する事は簡単で、だけどその善悪も正否も、自分の中だけで決めてしまえば、本質は見極める事が出来ないだろう。
「勇!!」
魚と一緒に泳ぎながらサンゴ礁を巡っていると、切羽詰まったかのようなアキの声が聞こえた。
どうやら大きな事故があったらしく人手が足りないと。そもそも寿命と言うのは決まっているのではないのかと頭を傾げると、突発的な事故等に関しては寿命が書き換えられる事もあるとか。
人は寿命が決められているけれど、それこそ選択を積み重ねて未来を創る過程で、早まる事もあるらしい。
「ちょっと行ってくる」
「あ、じゃあ私を病院へ連れていって?」
勇さんも急ぎアキの後を追おうとしているからこそ、私はそう申し出た。
知らない場所より知って動ける場所の方が良いだろう。
勇さんは一瞬、驚いたように目を見開いていたが、すぐに顔を正すと、しっかりと頷いて私の手を取ってくれた。
そんな私達を見ながら、アキは事故現場へ戻っていくのだろうが、とりあえず向かったであろう白い空間へ続く。
本当に便利だな、なんて思ってしまえる。これが現世からも繋がるならば……なんて思うけど、そうなれば死者といつでも会えるという事になるのかと苦笑する。
いや、それが七年前にもしあったのならば……なんて、また、ありもしない事を考えて思考の沼にはまりそうだ。
――でも、もう私は――
勇さんに送ってもらった病室で、私は両親を向き合う。と言っても、向こうからは見えないし認識すら出来ない。
七年は長かったんだ。
実際今こうして存在を認識されていなくても、悲しいとも悔しいとも寂しいとも思わない程、これが当たり前だったんだ。
そこにあるのは人形で、演劇をしていると言われても理解が出来る。
もしくは……そこに居るのが亜美だと言われたら……強く納得すら出来るだろう。
「ごめんなさい」
一方通行だとしても、私だけは両親にきちんと向き合い、頭を下げた。
「私という存在を作ってくれてありがとう」
だから、勇さんと出会えた。
辛かった
苦しかった
産まれてきたくなかった
生きている事が嫌だった
だけど……だからこそ、出会えたんだ。
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