9 / 21
09
しおりを挟む
つまりお互いが見張りという役割があるという事だ。
じゃあ何で未練がある魂なんて選ぶんだよ、という話なのだが、勇さん曰く、未練がない魂がそもそもないらしく、未練がないとしたら人徳がない等の余程訳ありな魂だと言う。
「生を渇望するからこそ、死者に優しくなれる」
勇さんのその言葉にドキッとした。
つまりそれは……勇さんは未練を残して死んだという事で、生に渇望しているという事なのだろう。
例えば私であれば……こんな間違えた魂に着いていたりするのだろうか?と、置き換えて考えてみると、死んで良いじゃないか、と問答無用になりそうだ。それこそ強制的に何か出来るのであれば全てそうするだろう。
――相手の思いに気が付く事も理解する事もできず。
「……ごめんなさい」
俯いて、小さな声で出た謝罪の言葉は勇さんに届いたようで、フッと柔らかい微笑を返してくれた。
――産んでくれなんて頼んで
――勝手に望んで勝手に作って勝手に産む
――誰が生きたいなんて頼んだの
生きたいと願って死んだ人間を目の前に言う言葉ではなかったと今更になって思った。
知らなかったから。なんて言っても、この罪悪感は拭えないし、知らなかったからと言っても、言って良い言葉ではなかっただろう。
相手の事を何も知らないのに、優しさに甘えて暴言を吐いてるだけの子どもじゃないか。
そんな事を思いながらも、叶わなかった“もしも”を想像する。
愛されていたら……
充実した生活であれば……
全てが違ったのだろうか、と。
産み落とされて、自我が芽生え、生きる事になる。
生きるって何だろう?
――人生は選択の連続である――
有名な人の言葉だったと思うけれど、選択の幅は限られていたかと思える。
情報を集めて知らなくちゃ、選択肢なんてとても少なくて。でも知っていたとして児童相談所なんて行っただろうか?
話しかけて、忙しいからと言われて
ごはんを作っても帰ってこなくて
良い成績をとっても褒められなくて
何を選択すれば、良くなったのかも分からない程、私はまだまだ子どもなんだと思い知らされる反面、結局安直に死へと逃げようとしただけなのも理解できた……。
理解してしまった…………。
住む場所があって
食べるものもあって
学校にも通えている
お金はあるのだろうし、苦労はしてない。
だけどそこはイコールで幸せに繋がらない。
暴力を振るわれたり、殺されかけたりしたわけでもない。
幸せも不幸も自分の心が決めるというけれど……
「死にたかったわけじゃなくて、愛されたかっただけでしょ」
いきなり放たれた勇さんからの言葉が、すとんと胸に落ちた。
目頭が熱くなるのが分かる。
「哲学とか、そういうのは分からないけど……生きる意味や価値は人それぞれじゃない?」
思わず、勇さんに縋り付いて涙をこぼしてしまった。そんな私を引き離す事もせず、ただただ背中を優しく撫でてくれる勇さんの優しさに今はただ縋り付きたい。
……欲しかった人の温もり。
特に何も考えてないように勇さんは言ったけれど、唐突に私は理解してしまったのだ。
こんな状況になって、ここまで色々考えて、色んな視点を知ったりしたからだろうか。きっと、こうなる前にそんな事を言われていても、そんな事ないとか言っていたんだろうな。
――自分で気が付かない自分の心。
ありがとう
ありがとう
ありがとう
口から出るのは嗚咽だけれど、心はずっと感謝の言葉を叫んでいる。
夜の公園で、人目に認識されるわけでもない私達は、何を気にするわけでもなく抱きしめあうかのように。そして私は勇さんの胸でひとしきり泣いた。
泣いて、泣いて、泣いた後に冷静になりつつある頭で私は思った。
大人びた、だけど実際の年齢は違うと言う勇さん。
知りたい
知りたい
知りたい
勇さんをもっと知りたい。
そんな想いが沸き上がってくる。
「勇さんは……どうやって亡くなったの……?」
ピクリと、勇さんの身体が動いた気がした。
その表情を真っすぐ見つめる勇気はなくて、ただ勇さんの胸に顔を埋めたまま、私は次の言葉を待った。
「移動しようか」
少し間があった後に勇さんはそう言うと、また真っ白な空間へ戻される。
あの場所はあまり好きじゃないんだけどな……なんて思っていると、距離短縮だよ、なんて言いながら、また四角いドアらしきものを出した。
「うわぁっ」
くぐり抜けたそこは、山頂あたりから市街の夜景を見渡せる場所だった。と言っても、私達はその辺りに浮いているので、更にもう少し上から見下ろせる位置にいる。
海面らしきものにも浮かび上がる光、これは日本三大夜景に選ばれている場所じゃないだろうか。確か長崎の稲佐山。
まだ時間が間に合うと思ったから、と言いながら勇さんも目を細めながら夜景を眺めている。……そして
「僕の話をしようか……?」
じゃあ何で未練がある魂なんて選ぶんだよ、という話なのだが、勇さん曰く、未練がない魂がそもそもないらしく、未練がないとしたら人徳がない等の余程訳ありな魂だと言う。
「生を渇望するからこそ、死者に優しくなれる」
勇さんのその言葉にドキッとした。
つまりそれは……勇さんは未練を残して死んだという事で、生に渇望しているという事なのだろう。
例えば私であれば……こんな間違えた魂に着いていたりするのだろうか?と、置き換えて考えてみると、死んで良いじゃないか、と問答無用になりそうだ。それこそ強制的に何か出来るのであれば全てそうするだろう。
――相手の思いに気が付く事も理解する事もできず。
「……ごめんなさい」
俯いて、小さな声で出た謝罪の言葉は勇さんに届いたようで、フッと柔らかい微笑を返してくれた。
――産んでくれなんて頼んで
――勝手に望んで勝手に作って勝手に産む
――誰が生きたいなんて頼んだの
生きたいと願って死んだ人間を目の前に言う言葉ではなかったと今更になって思った。
知らなかったから。なんて言っても、この罪悪感は拭えないし、知らなかったからと言っても、言って良い言葉ではなかっただろう。
相手の事を何も知らないのに、優しさに甘えて暴言を吐いてるだけの子どもじゃないか。
そんな事を思いながらも、叶わなかった“もしも”を想像する。
愛されていたら……
充実した生活であれば……
全てが違ったのだろうか、と。
産み落とされて、自我が芽生え、生きる事になる。
生きるって何だろう?
――人生は選択の連続である――
有名な人の言葉だったと思うけれど、選択の幅は限られていたかと思える。
情報を集めて知らなくちゃ、選択肢なんてとても少なくて。でも知っていたとして児童相談所なんて行っただろうか?
話しかけて、忙しいからと言われて
ごはんを作っても帰ってこなくて
良い成績をとっても褒められなくて
何を選択すれば、良くなったのかも分からない程、私はまだまだ子どもなんだと思い知らされる反面、結局安直に死へと逃げようとしただけなのも理解できた……。
理解してしまった…………。
住む場所があって
食べるものもあって
学校にも通えている
お金はあるのだろうし、苦労はしてない。
だけどそこはイコールで幸せに繋がらない。
暴力を振るわれたり、殺されかけたりしたわけでもない。
幸せも不幸も自分の心が決めるというけれど……
「死にたかったわけじゃなくて、愛されたかっただけでしょ」
いきなり放たれた勇さんからの言葉が、すとんと胸に落ちた。
目頭が熱くなるのが分かる。
「哲学とか、そういうのは分からないけど……生きる意味や価値は人それぞれじゃない?」
思わず、勇さんに縋り付いて涙をこぼしてしまった。そんな私を引き離す事もせず、ただただ背中を優しく撫でてくれる勇さんの優しさに今はただ縋り付きたい。
……欲しかった人の温もり。
特に何も考えてないように勇さんは言ったけれど、唐突に私は理解してしまったのだ。
こんな状況になって、ここまで色々考えて、色んな視点を知ったりしたからだろうか。きっと、こうなる前にそんな事を言われていても、そんな事ないとか言っていたんだろうな。
――自分で気が付かない自分の心。
ありがとう
ありがとう
ありがとう
口から出るのは嗚咽だけれど、心はずっと感謝の言葉を叫んでいる。
夜の公園で、人目に認識されるわけでもない私達は、何を気にするわけでもなく抱きしめあうかのように。そして私は勇さんの胸でひとしきり泣いた。
泣いて、泣いて、泣いた後に冷静になりつつある頭で私は思った。
大人びた、だけど実際の年齢は違うと言う勇さん。
知りたい
知りたい
知りたい
勇さんをもっと知りたい。
そんな想いが沸き上がってくる。
「勇さんは……どうやって亡くなったの……?」
ピクリと、勇さんの身体が動いた気がした。
その表情を真っすぐ見つめる勇気はなくて、ただ勇さんの胸に顔を埋めたまま、私は次の言葉を待った。
「移動しようか」
少し間があった後に勇さんはそう言うと、また真っ白な空間へ戻される。
あの場所はあまり好きじゃないんだけどな……なんて思っていると、距離短縮だよ、なんて言いながら、また四角いドアらしきものを出した。
「うわぁっ」
くぐり抜けたそこは、山頂あたりから市街の夜景を見渡せる場所だった。と言っても、私達はその辺りに浮いているので、更にもう少し上から見下ろせる位置にいる。
海面らしきものにも浮かび上がる光、これは日本三大夜景に選ばれている場所じゃないだろうか。確か長崎の稲佐山。
まだ時間が間に合うと思ったから、と言いながら勇さんも目を細めながら夜景を眺めている。……そして
「僕の話をしようか……?」
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
恋した悪役令嬢は余命一年でした
葉方萌生
恋愛
イーギス国で暮らすハーマス公爵は、出来の良い2歳年下の弟に劣等感を抱きつつ、王位継承者として日々勉学に励んでいる。
そんな彼の元に突如現れたブロンズ色の髪の毛をしたルミ。彼女は隣国で悪役令嬢として名を馳せていたのだが、どうも噂に聞く彼女とは様子が違っていて……!?
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
護国神社の隣にある本屋はあやかし書店
井藤 美樹
キャラ文芸
【第四回キャラ文芸大賞 激励賞頂きました。ありがとうございますm(_ _)m】
真っ白なお城の隣にある護国神社と、小さな商店街を繋ぐ裏道から少し外れた場所に、一軒の小さな本屋があった。
今時珍しい木造の建物で、古本屋をちょっと大きくしたような、こじんまりとした本屋だ。
売り上げよりも、趣味で開けているような、そんな感じの本屋。
本屋の名前は【神楽書店】
その本屋には、何故か昔から色んな種類の本が集まってくる。普通の小説から、曰く付きの本まで。色々だ。
さぁ、今日も一冊の本が持ち込まれた。
十九歳になったばかりの神谷裕樹が、見えない相棒と居候している付喪神と共に、本に秘められた様々な想いに触れながら成長し、悪戦苦闘しながらも、頑張って本屋を切り盛りしていく物語。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

忘れられたら苦労しない
菅井群青
恋愛
結婚を考えていた彼氏に突然振られ、二年間引きずる女と同じく過去の恋に囚われている男が出会う。
似ている、私たち……
でもそれは全然違った……私なんかより彼の方が心を囚われたままだ。
別れた恋人を忘れられない女と、運命によって引き裂かれ突然亡くなった彼女の思い出の中で生きる男の物語
「……まだいいよ──会えたら……」
「え?」
あなたには忘れらない人が、いますか?──
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる