上 下
7 / 21

07

しおりを挟む
どうやら、私の感情が高ぶって、それによりポルターガイストを起こした上に見えやすくなってしまったそうだ。
それを聞いて、見られたい時に姿を見せる事が出来るの?と問いかけた私の言葉に対して勇さんはノーコメントと答えたから、出来ない事はないという事なんだろうな、なんて勝手に都合よく思っておいた。
それにしても……人というのは、裏があるな、と思う。そして、恋愛なんて信じられるものでもないな、と。
愛し合って結婚しても、結局浮気をしている両親を見てきたじゃないか。
母だって表向きは優しい人だろう。父だって仕事が出来る頼もしい人だろう。だけど裏ではどうだ。家族を顧みる事をせず、自分の好き放題生きているじゃないか。

――私の事すら忘れて。

愛って何
家族って何
人って何

ぐるぐると答えなんて出る事ないだろう疑問が頭の中を駆け巡る。
さっきまで呆れつつ若干小言が多くて説教じみてた勇さんも、今は静かに私の後ろについてきている。今はその距離感が嬉しくて、勇さんは気遣いが出来て優しいんだな、とも思える……

けれど
でも

信じてはいけない。
裏がある。
そういうのを見つけようと、否定的な言葉が続いてしまう。

「あ……」

ふと、足を止めて気が付く。私が無意識で向かっていたのは此処だったのかと。

「……」

此処がどういう場所なのか知ってるのだろう勇さんは何も言わない。
私は公園の前にある車道の、とある場所に立って、上を見上げる。車が通るけれど、それは私の身体をすり抜けていくだけで、私に衝撃など一つも与えない。

「……私が……死ねば良かったのかな……」

過去は変えられない。なくしたものは戻らない。
そうと理解していても呟かずにはいられなかった。
勇さんは聞こえていただろうけれど、その言葉に対して反応はしなかった。きっと今どんな言葉を言われたとしても、私は否定の言葉を返してしまうだろうから。

「亜美…………」

もう、その名を呼ぶ事すらなかった。
――亜美――
七年前、ここで死んだ妹の名前。
忘れもしない、九月六日。私は小学二年生で、亜美は小学一年生。
小学生になったから、と、二人で公園に来てボール遊びをしていたんだ。
ボールを投げあっていて、私が投げたボールが外れて、車道の方へ飛んでってしまって……それを追いかけて車道に飛び出した亜美は……車に轢かれた。
一瞬何が起こったのか分からなくて、周囲の悲鳴と車を運転していた人の叫び声と……道路に広がり染まる赤。
全てがスローモーションで、自分の感覚すら分からなくなるほどで……かろうじて理解したのは亜美が動いていない事で……。
そこから記憶がほとんどない。そこからどうなったのか、どうやって帰ったのか。
そして通夜も告別式もしたと思う。小さな骨を見たと思う。だけどその辺りに関しては全く実感がないのだ。まるで夢を見ただけかのように、記憶に霧がかっているように。

「亜美」

貴女さえ生きていてくれたら……そう何度願ったか分からない。
意気消沈した両親に、会話がなくなった家。放置された私。
母は泣いて暮らし、家事をしなくなり、父はそんな家から逃げるかのように仕事に没頭した。
そんな日々を過ごしていく内に、母は自分を支えてくれる男と仲良くなり、父は一緒に仕事をしている女と仲良くなっていた。
隠そうともしない両親、というか私の存在に気が付いていないかのような二人だったから、すぐに気が付いた。
ケバい化粧に露出のある服。香水の移り香に週末は外泊。

――亜美だから……?
――亜美が死んだから……?
――私は……?

何度も自問自答した挙句、答えが出なかった質問が頭をよぎったが、すでに魂である今は苦笑する。
生きているわけでもない、そんな事で悩む必要もない。むしろ魂だけなのに、そこまで回る頭が嫌になる。
七年だ。七年たっても両親は私に気が付いてくれなかったのだ。もうそれが答えだろう。

――貴方は亜美の事なんて愛してなかったから、そんな平気な顔をして生きていられるのよ!!だから浮気も楽しめるのよ!!――

家を出る前に母が怒鳴っていた言葉を思い出し、あんた達の事だね、と心の中でだけ皮肉を返す。
私の事なんて愛してなかったから、平気な顔して生きて、浮気を楽しめているのだ。

「勇!!!!」

ついつい感傷に耽っていた時に、甲高い怒鳴り声が聞こえて我に返る。
声の方向を見ると、宙に浮いた人がこちらを見下ろしているのがわかる。
目深な帽子にブカっとしたメンズ服を着てるけれど、背丈的には同じ年くらいなのかな……?女?声変わり前の男??
そんな事を考えていると、私達の前に降り立ってきて、やっと表情が分かる距離になって初めてかろうじて見える口元が歪んでいたのが分かった。

「あんたまだ居るのか!勇!仕事しろ!!!」
「してるけどねぇ……」

どうやら怒り心頭らしいが、勇さんはお手上げですというポーズを決めながら返事を返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

日本酒バー「はなやぎ」のおみちびき

山いい奈
ライト文芸
小柳世都が切り盛りする大阪の日本酒バー「はなやぎ」。 世都はときおり、サービスでタロットカードでお客さまを占い、悩みを聞いたり、ほんの少し背中を押したりする。 恋愛体質のお客さま、未来の姑と巧く行かないお客さま、辞令が出て転職を悩むお客さま、などなど。 店員の坂道龍平、そしてご常連の高階さんに見守られ、世都は今日も奮闘する。 世都と龍平の関係は。 高階さんの思惑は。 そして家族とは。 優しく、暖かく、そして少し切ない物語。

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

処理中です...