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62.アイと対面する

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 目が覚めた時、俺はこの身体が俺のものとして馴染んでいる事に気が付いた。
 ……違和感が、一切ない。
 鏡を見ても、これが自分の姿なんだと思う。
 記憶もあって、身体を動かせて……ただ、フッといきなり佐伯斗真の記憶が蘇ったかのようで……幽霊で居た記憶がなければ、俺自身も転生者だと思う程だ。

 ――そして、今日はアイと面会する日だ。

「ご無沙汰しております。殿下」

 アイが綺麗なカーテシーで挨拶をする。カーテシーがどういうものかはテレビで見た事はあっても、俺の記憶だけでは、どれが美しいのかなんて分からなかった。しかし、王子の記憶がある今、芸術作品の価値を理解したかのよう、このカーテシーがどれだけ素晴らしいものなのか分かる。

「まぁ、座って」
「失礼いたします」

 最低限、人払いを済ませた応接室。とても婚約者同士語り合う場……という雰囲気ではない。
 そして、アイの表情は、分かりにくいけれども悲しそうだ。化粧で隠していると言っても、目の下にクマが出来ているし、腫れているのも分かる。
 多分、それは四六時中アイに憑きっきりだった俺だからこそ分かるんだろうけど……。いや、何それストーカーっぽい?

「殿下?お話とは」

 心配でアイの方を見ていたら、話し始めない俺に対してアイの方から言葉をかけてきた。

「あぁ……先日の件なんだが……ブルーノは側近から外し、ルネも護衛から外した。アニスに関しては、国の法に乗っ取って処罰される」

 簡潔に必要最低限の事を伝えたのだが、アイはこちらを伺うようにジッと見つめ、話の内容はスルーしているかのように見える。

「……」
「……」

 会話が続かない……。俺の言葉に対し、特に何かを聞いてくるわけでもなければ、ジッと俺の様子を伺うアイに、俺が視線を反らしてしまいそうになる。
 え?何で?どうして?
 一応、ここは喜ぶところじゃないの?もう退場とか言われる事もないし、アイの悪い噂だって、事実無根である事が証明された話はすぐに広まる。

(あ……不仲な婚約者だったか)

 つい忘れてしまっていたが、洗脳のようなものにかかっていたと、自分の口からハッキリとアイに伝えていなかった事を思い出す。
 簡単にアイの父親へフォローがてらの説明は入っているだろうが、どこまでアイに伝わっているのかも分からないのだ。
 それに、断罪ルートは婚約破棄の条件が必ずあったような……?いや、そもそも婚約破棄は全てのルートにおいて決定事項だった気がする。あそこは分岐のないシナリオだ。

「アニスの事だが……」

 名前を出した瞬間、ビクリと身体を震わせたアイに、優しい声で説明をする。
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