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60.王子の身体が生きるという事

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「それはアデライトの為にはならないだろう」
「っ!」

 アイの名前を出されて、俺は思わず怯んだ。
 俺の唯一心残りとなる相手だ……。このまま、この世界で消滅するのも悲しい。せめて親の顔くらい見たい。けれども、それが出来ないのであれば……否、出来たとしても……ここで生きるアイを残してきた事に後悔が生まれそうだ。
 結局、俺はどっちの世界で終えようと、どちらも恋しんでしまう事になるのか。

「……僕の勝手な願いで呼び寄せた事は悪いと思っているんだよ?」

 更に身体が透けた王子は、苦笑しながら、言った。

「あぁ、そろそろ時間かな。お詫びだと思ってもらったら良い。それに、僕の身体が生き延びる事は、国にとって助けとなることも本当だろう」
「どういう事だ?」

 確かに、助けとなる人をと願ったとして俺が出来た事なんてほぼない。せいぜい浮遊していた程度だ。それでも、王子の身体だけでも生き延びる必要があるとは分からない。

「アデライトを手放す事によって政治バランスを保てなくなる。……二人で未来を見ていってくれれば、それで良いんだよ」
「はっ!?」

 つまり、俺とアイに結婚しろと言ってるわけで!?……いや、確かに身体は王子のだけれど!?でも中身は俺で!
 ……それどういう状況!?何か色々と複雑すぎるんですけど!?
 俺、自分の身体に嫉妬するってか!?いや王子の身体だけど!?複雑すぎる!

「あはははは!」
「……クソ王子……」

 俺の状態を見て、お腹を抱えて笑う王子に悪態をつく。そんな事でしか抵抗出来ない自分がもどかしくもあるが……。

「アデライトが好きなんだろう?」
「っ!?」

 言われて、自分の顔が熱くなったように感じた。まぁ、精神世界なので実際は赤くなっていないと思いたいのだが、王子がニヤニヤした顔でこちらを見てくるので、思わず顔を背けた。
 俺は……アイが好き……なのか。
 王子に言われて気が付くというか自覚をするという自分の情けなさに頭を抱えたくなったが、だからと言って王子の言う事を素直に聞いて身体を貰うという事も出来ない。

「……俺は第一王子ってガラでもないし、そもそも王族をやれる自信もない……だから……」
「アデライトは王子妃教育を完了しているし、第二王子が居るから立太子はそちらにさせれば良い」

 俺の言い訳のような……でも事実、悩んでいる部分に対して、王子はサラリと問題解決となる提案をしてくる。
 王子妃教育を終えているのか……それは……確かに色んな意味で王族がアデライトを手放すというのは痛手だろう。……王子妃教育の事なんてアイから聞いた覚えもないが。
 まぁ言う必要もなかったんだろうな、と思えば、自分の中で納得できた。ゲームと関係ない事だし。
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