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34.ヒロインには会いたくないのに

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「疲れた……」

 グッタリと馬車の中で屍のように浮遊している俺を見て、お嬢様は開き直るように言った。

「だって生きたいもの」
「死んだ人間を前にしてよく言える……」

 それでも生きてるなら生きようとは本能的に思うのは分かる。死にたいーなんて言葉で言っても、食べるし寝る。更に言うなら攻撃されれば避けるし逃げるだろう。

「……処刑というルートを辿る為に生まれたとは、思いたくないの……抗いたい」

 悲しそうに眼を伏せてお嬢様が言った時、馬車は学園に到着したようで、止まった。
 確かに、最初から自分の生きる道が決められている上、知っているのは自分の存在価値さえも見誤りそうだ。
 人間、何をするのも選択の連続だと言うのは聞いた事がある。その選択によって未来が決まると……まぁ、それで学業よりもゲームを選んだ俺は、生きていたら一体どんな未来になっていたんだろうな……。

「きゃっ」

 もし、なんてあり得ない未来についてボーっと考えながらお嬢様に引きずられていたら、横から少し甲高い悲鳴が聞こえた。
 うん、聞きたくない声だ。ぶりっ子モードの声だ。相手は見なくても分かる。
 お嬢様の横顔も、一瞬口元が引きつった。……そりゃ関わりたくないだろうなぁ。

「ごめんなさい……驚いて……」
「いえ、いいのよ」

 ビクビクおどおどと言った感じで話しかけてくるヒロイン、アニス。怖いなら話しかける必要もないだろうに。
 門から校舎へ続く通路には、人も沢山いる。こちらをジロジロ見ているし、お嬢様も無視するわけにはいかない。
 しかし、アニスのあの態度を遠目から見ているだけの人には、怯えているようにしか見えないというか……お嬢様が虐めているようにも見えるわなー……。

「あの……本当に殿下を階段から突き落としたのですか……?」
「どの口が言う」

 相手に聞こえないからこそ、あえて俺は口に出して少し怒りを発散した。てか、いちいちこんな人通りが多いところで言う事か?空気読め!日本人なら空気読めるだろう!
 こんな人間、二次元で存在するだけで充分だろう。現実に存在しないで頂きたい。切実に。気持ち悪くて仕方がない。

「私、本来のアデライト様はそんな事する人ではないと思ってます!でも、いくら嫉妬にかられたから言って行き過ぎた行為じゃないですか……?私が悪いのは分かってます……なら、私を害してくれれば良かったのに……」

 勝手な妄想に勝手な意見。挙句ハラハラと涙を流して、泣いたもの勝ちとでも言いたいのかとすら思える。
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