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29.こいつ嫌い

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 ドン引きである。
 ……もう一度言おう、ドン引きである。
 大事な事なので、もっかい頭の中で繰り返して良い?……ドン引きだ。

「……どんだけ、やりこんだんだ、こいつ……」

 手帳には、最短ルートだと思われる攻略方法の他、攻略対象とのデートだけに飽き足らず、欲しい物リストや他の令息とのデート予定まで書きこまれている……。
 もうこれは手帳じゃない。欲望ノートだと言っても過言ではない。せめてゲームの攻略だけなら、おぉ!同士よ!と思えたかもしれないが、もはやこれは違う。
 ビッチまっしぐらなヒロインにドン引きしかない。

「よっし!武術イベントの為に鍛錬と、図書館イベントの為に勉強よ!」

 それ、まだ先のイベントじゃないのか?と思いながらも、攻略の為に先読みして動くのは素晴らしい事だと思う。……欲しい物リストと他の男と遊ぶという事がなければ。
 というか、根本的にゲームなら許せるけど、これリアルだからな?リアルなんだからな?現実って知ってるか、おい……。

「つっこみたいのに、認識されていない悲しみよ……」

 心の中でしか盛大に突っ込みを入れながらも、会話相手の居ない寂しさに黄昏る。
 既にこのまま監視するという事に飽きてというか、嫌気がさしてきた所に、ヒロインが立ち上がってからボソリと言った。

「っと……後で悪役令嬢が先に退場する場合の行動も考えないとだ」
「……は?」

 思わず、自分でも驚く程の低い声が出た。
 何そんな簡単に楽しそうな声で言えるんだ?

 ――こいつ、許せない。

 怒りとか憎しみとかより、人としての嫌悪感が襲う。

「小さい事も見逃したくないな」

 夜はお嬢様の所に戻るつもりだったけど、夜に出かける可能性もあるだろうし、こういうノートや呟きもしっかり監視した方が良いと思えてきた。
 むしろ、誰か人目がある所とか、学園みたいに二人コバンザメが付いているような所では攻略関係は出さないだろう。
 ……寝て起きたら、どうなるか分からないけど……。

「お嬢様の所に強制送還かなー……身体がないから寝なくても問題なさそうなら……寝ずに見張るか……?」

 暇だろな。
 絶対暇だろうな。
 そして寂しいだろうな。
 そう思うけれど、こいつは嫌いだ。許したくないという思いで突き動かされる。
 はまっていたゲームのヒロインが、こんな奴というのも嫌な要因の1つではあるだろう……。ゲームでやっている時は、ある意味こんな不愉快な奴等だとは思わなかったのに……。
 浮足立って楽しそうなヒロインの後を、睨みつけるようにして俺はずっと憑いて行った。
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