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17.離れることができた?
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「あぁ…………退屈だ。退屈で死にそうだ」
そんな俺の声が聞こえているだろうお嬢様は、何も聞こえてませんよという感じで他の令嬢達と昼食を取っている。
楽しい聖地巡礼も、終えてしまえば退屈で暇で孤独な毎日が待っているだけだった。
お嬢様の行くところに憑いて行くだけ。
お嬢様の近くに居るだけ。
貴族のお嬢様達とは言え、その会話は婚約者の事であったり、噂話だったりと、普通に女の子をしているようだ。……ただ、表情は常に笑顔で何を考えているか分からない人形のような怖さもあったが。
俺としては、ガールズトークに聞き耳を立てているようで、気恥ずかしさと申し訳なさもあったが、日に日に慣れていく自分を感じていた。
……というか、どうせ認識されていないんだし、もうどうでも良いかとさえ開き直ったという方が正しいのだが……。
「さすがにさっきのは止めてもらえる?」
お花を摘みに……と言ったお嬢様は人気のない所へ行ったかと思うと、俺に対して苦言を呈した。
「ん?何が?」
「あのねぇ……こっちは笑いを堪えるのに大変なのよ!」
すっとぼけた俺に対して、少しイラッとしたようにお嬢様は返す。
うん、やった事と言えば、とある令嬢の隣で変顔をしたり……お嬢様の正面に座る令嬢の背後から手を出して阿修羅や千手観音に見えるよう遊んだり……か。
さすがのお嬢様でも笑いを堪えるのは大変だったのか……。
「あっ」
戻ろうとしたお嬢様は、声を上げて柱に隠れた。俺もすぐにお嬢様の視線を追うと、その先にはオレンジの髪をした可愛らしい令嬢が居た。
両サイドには男二人を侍らして楽しそうに笑っている。
「……ヒロイン?」
俺の言葉に、お嬢様は頷いた。
処刑の原因となるものに、そりゃ近づきたくないわな。そして、一緒に居るのは王太子の側近と護衛と言った攻略対象者か。
……ヒロイン……ねぇ……。
そんな事を考えて、ちょっと顔を間近で見てやろうと近づいた隙に、お嬢様が遠く離れた所まで逃げるよう速足で歩いて行っていた。
「あれ!?ちょ!!」
思わず、お嬢様の後を追いかける。
俺の声が聞こえたのか、お嬢様は少しだけ首を傾げる動作をした。ったく、行くなら行くって言ってくれれば良いのに……。おかげで、全速力でお嬢様の元へ走るはめになって疲れる……。
と、ここまで考えて俺は首を捻った。
今までは、お嬢様と一定の距離以上離れる事が出来なくて、離れようとしても無理やり引っ張られていたのだ。
「……離れる事が出来た……?」
「え」
俺が呟いた言葉に、お嬢様もうっかり反応してしまう位、驚いていた。
そんな俺の声が聞こえているだろうお嬢様は、何も聞こえてませんよという感じで他の令嬢達と昼食を取っている。
楽しい聖地巡礼も、終えてしまえば退屈で暇で孤独な毎日が待っているだけだった。
お嬢様の行くところに憑いて行くだけ。
お嬢様の近くに居るだけ。
貴族のお嬢様達とは言え、その会話は婚約者の事であったり、噂話だったりと、普通に女の子をしているようだ。……ただ、表情は常に笑顔で何を考えているか分からない人形のような怖さもあったが。
俺としては、ガールズトークに聞き耳を立てているようで、気恥ずかしさと申し訳なさもあったが、日に日に慣れていく自分を感じていた。
……というか、どうせ認識されていないんだし、もうどうでも良いかとさえ開き直ったという方が正しいのだが……。
「さすがにさっきのは止めてもらえる?」
お花を摘みに……と言ったお嬢様は人気のない所へ行ったかと思うと、俺に対して苦言を呈した。
「ん?何が?」
「あのねぇ……こっちは笑いを堪えるのに大変なのよ!」
すっとぼけた俺に対して、少しイラッとしたようにお嬢様は返す。
うん、やった事と言えば、とある令嬢の隣で変顔をしたり……お嬢様の正面に座る令嬢の背後から手を出して阿修羅や千手観音に見えるよう遊んだり……か。
さすがのお嬢様でも笑いを堪えるのは大変だったのか……。
「あっ」
戻ろうとしたお嬢様は、声を上げて柱に隠れた。俺もすぐにお嬢様の視線を追うと、その先にはオレンジの髪をした可愛らしい令嬢が居た。
両サイドには男二人を侍らして楽しそうに笑っている。
「……ヒロイン?」
俺の言葉に、お嬢様は頷いた。
処刑の原因となるものに、そりゃ近づきたくないわな。そして、一緒に居るのは王太子の側近と護衛と言った攻略対象者か。
……ヒロイン……ねぇ……。
そんな事を考えて、ちょっと顔を間近で見てやろうと近づいた隙に、お嬢様が遠く離れた所まで逃げるよう速足で歩いて行っていた。
「あれ!?ちょ!!」
思わず、お嬢様の後を追いかける。
俺の声が聞こえたのか、お嬢様は少しだけ首を傾げる動作をした。ったく、行くなら行くって言ってくれれば良いのに……。おかげで、全速力でお嬢様の元へ走るはめになって疲れる……。
と、ここまで考えて俺は首を捻った。
今までは、お嬢様と一定の距離以上離れる事が出来なくて、離れようとしても無理やり引っ張られていたのだ。
「……離れる事が出来た……?」
「え」
俺が呟いた言葉に、お嬢様もうっかり反応してしまう位、驚いていた。
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