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14.憑りつくならば陰キャが良い

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 これって所謂、憑りつくというやつだよな……。
 何でこんなお嬢様に憑りついたんだ俺……一体どういう原理でこうなった……。

「ちょっと聞いてる?……声に出さないと意思表示出来ないなんて少し面倒ね」

 お嬢様は声を潜めて俺に話しかけてきたが、俺は未だに項垂れたままだ。しんどい……疲れた。
 引きずられている俺をよそに、朝めいっぱい身体を鍛えた後、支度をすると学園へ行く馬車に乗り込んだ。

「他人事だと思って……」
「お嬢様こそ……インドア舐めんじゃねーぞ……」
「生きる為よ……」

 息が上がってるなんてあるわけないのに、俺は息苦しい感覚を覚えて肩で息をしているからか、お嬢様はスッと目線を外した。少しは申し訳ないと思っているのか、その瞳が少し泳いでいる。まぁ、お嬢様が生きる為に必死な事は理解した。
 幽霊は陽キャより陰キャに憑く……とかいう話を聞いた事あるが……何故か今の俺は無性に納得した。うん、出来れば陰キャ希望。てか陰キャが良い。陰キャじゃなきゃ嫌だ。

「城でベッドに寝てたのが王太子、側に居たのがヒロイン……か」
「そして側近と護衛ね。王太子含めて篭絡されたようなものなんだけど……」
「王太子が昏睡状態に陥るストーリーは誰のルートでもなかったな」

 俺の言葉に、お嬢様は頷いて答える。
 あれがヒロインか……あっちに憑りついてても泣き声がうるさそうだし、俺ぶりっ子とか嫌いだしなー。そして護衛もお嬢様みたいにうるさそうだけれど、男だからこそ更に上をいきそうだな。側近に至っては……書類の山とかで頭が痛くなりそうだな。
 そう考えると、憑りついたような相手がお嬢様で良かったのかもしれない……。

「婚約回避は出来なかったんだけど……何故か王太子殿下は、この世界では立太子していないのよ」
「……へ?」
「王太子という位には誰もおらず、未だに第一王子という位なのよ……」

 他は大体シナリオ通りに進んでいたのだけど……と、更に声を落としてお嬢様は言った。
 今まで、シナリオ回避に奮闘していたのだろう、身体が少し震えている。一人最悪な未来を知って、それを回避する為に動くのも孤独なんだろうなぁという思考は過るものの、どれだけ過酷なのかは想像もつかない。

「お。あれが学園か」

 馬車の窓からゲームで見た事のある景色が見えた。

「……楽しそうね」
「いや、あのゲームの中と考えたら……」

 俺の様子に、呆れたようにお嬢様はため息を吐いた。
 いや、もう自分の現状を嘆きたい気持ちもあるけれど、嘆いたところで仕方ない……と気持ちを切り替えたわけでもないが、やはりゲームの世界が目の前にあると思えば少しは心も弾むというものだ。
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