20 / 23
20
しおりを挟む
「お久しぶりです」
「……あぁ……」
嫌味の様な一言に、少し気まずそうにカラルスは返す。
煌びやかなサロンで無言の時間が続く中、私は色々と考えていた。
例え生き延びたとしても……納得なんていかないのだ。前回、処刑されたという記憶が生々しく残っていて、そこにある感情は一言で表しきれないものだ。無念、恨み、悲しみ……失望。
「……何用でしたでしょうか」
訪れて来たが一向に要件を言わないカラルスに、こちらから単刀直入に声をかけた。でないと、私の本題が入れないからだ。
「それは……」
何とも歯切れの悪い。カラルスの優柔不断さにイライラしてしまう。
以前まではカラルスが何をしたとしても気にならなかったし、それこそ愛情ゆえの妄信的なものもあったのだろう。だけれど、今は色んな事が目についてしまう。
「私達の婚約はどうされますか?」
私が唐突に切り出した本題に、カラルスの身体がビクリと震えた。
しかし何も言い返してこない辺り、既に予想していた事だろう。そもそも、今回の事件はランテス男爵令嬢にあり、勿論学園での行いもしっかり調べられているだろう。勿論、それに対してカラルスの名前が出ていて当然だ。
――あれだけ愛していたのに、前は守ってすらもらえなかった。
カラルスにそれを求めるのは酷な事かもしれないと、今回は思えてしまう。思えてしまっても……そんな人とこのまま一緒に居る未来なんて見えない。
あの恐怖や……苦しみ、悲しみ、そして絶望……日々の押しつぶされそうな不安感。
好きだからこそ現れる感情だろうけど、婚約者同士なのだから、そこは安心させてほしかった。信頼させてほしかった。……求めるものではないのかもしれないけれど、信用しようと自己暗示するのも何かが違う気がする。
相手があってこその関係だから、自分1人で行うものではない。
そして……信頼が崩れるのは一瞬で……そこから立て直すのは本当に大変なのだ。……私だって、本当に淑女教育を頑張った。これ以上失うものもなかったから我武者羅になれたとも言えるけれど。
「……ランテス男爵令嬢とは何もない」
「……それが通じるとでもお思いですか?」
辛辣な言葉を返す。
「何もしていない」
「悪い意味でもしていませんね」
私の言葉に隠された意味を感じとったのか、カラルスは苦痛の表情を見せる。
そう、何もしていないのだ。受け入れる事もしていなければ……拒絶する事もしていない。それは優しさでも何でもないどころか、一層状況を悪くしているだけだというのに、だ。
「……あぁ……」
嫌味の様な一言に、少し気まずそうにカラルスは返す。
煌びやかなサロンで無言の時間が続く中、私は色々と考えていた。
例え生き延びたとしても……納得なんていかないのだ。前回、処刑されたという記憶が生々しく残っていて、そこにある感情は一言で表しきれないものだ。無念、恨み、悲しみ……失望。
「……何用でしたでしょうか」
訪れて来たが一向に要件を言わないカラルスに、こちらから単刀直入に声をかけた。でないと、私の本題が入れないからだ。
「それは……」
何とも歯切れの悪い。カラルスの優柔不断さにイライラしてしまう。
以前まではカラルスが何をしたとしても気にならなかったし、それこそ愛情ゆえの妄信的なものもあったのだろう。だけれど、今は色んな事が目についてしまう。
「私達の婚約はどうされますか?」
私が唐突に切り出した本題に、カラルスの身体がビクリと震えた。
しかし何も言い返してこない辺り、既に予想していた事だろう。そもそも、今回の事件はランテス男爵令嬢にあり、勿論学園での行いもしっかり調べられているだろう。勿論、それに対してカラルスの名前が出ていて当然だ。
――あれだけ愛していたのに、前は守ってすらもらえなかった。
カラルスにそれを求めるのは酷な事かもしれないと、今回は思えてしまう。思えてしまっても……そんな人とこのまま一緒に居る未来なんて見えない。
あの恐怖や……苦しみ、悲しみ、そして絶望……日々の押しつぶされそうな不安感。
好きだからこそ現れる感情だろうけど、婚約者同士なのだから、そこは安心させてほしかった。信頼させてほしかった。……求めるものではないのかもしれないけれど、信用しようと自己暗示するのも何かが違う気がする。
相手があってこその関係だから、自分1人で行うものではない。
そして……信頼が崩れるのは一瞬で……そこから立て直すのは本当に大変なのだ。……私だって、本当に淑女教育を頑張った。これ以上失うものもなかったから我武者羅になれたとも言えるけれど。
「……ランテス男爵令嬢とは何もない」
「……それが通じるとでもお思いですか?」
辛辣な言葉を返す。
「何もしていない」
「悪い意味でもしていませんね」
私の言葉に隠された意味を感じとったのか、カラルスは苦痛の表情を見せる。
そう、何もしていないのだ。受け入れる事もしていなければ……拒絶する事もしていない。それは優しさでも何でもないどころか、一層状況を悪くしているだけだというのに、だ。
343
お気に入りに追加
3,962
あなたにおすすめの小説

【完結】私は側妃ですか? だったら婚約破棄します
hikari
恋愛
レガローグ王国の王太子、アンドリューに突如として「側妃にする」と言われたキャサリン。一緒にいたのはアトキンス男爵令嬢のイザベラだった。
キャサリンは婚約破棄を告げ、護衛のエドワードと侍女のエスターと共に実家へと帰る。そして、魔法使いに弟子入りする。
その後、モナール帝国がレガローグに侵攻する話が上がる。実はエドワードはモナール帝国のスパイだった。後に、エドワードはモナール帝国の第一皇子ヴァレンティンを紹介する。
※ざまあの回には★がついています。

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに
hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。
二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

従姉妹に婚約者を奪われました。どうやら玉の輿婚がゆるせないようです
hikari
恋愛
公爵ご令息アルフレッドに婚約破棄を言い渡された男爵令嬢カトリーヌ。なんと、アルフレッドは従姉のルイーズと婚約していたのだ。
ルイーズは伯爵家。
「お前に侯爵夫人なんて分不相応だわ。お前なんか平民と結婚すればいいんだ!」
と言われてしまう。
その出来事に学園時代の同級生でラーマ王国の第五王子オスカルが心を痛める。
そしてオスカルはカトリーヌに惚れていく。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

婚約破棄ですか? 理由は魔法のできない義妹の方が素直で可愛いから♡だそうです。
hikari
恋愛
わたくしリンダはスミス公爵ご令息エイブラハムに婚約破棄を告げられました。何でも魔法ができるわたくしより、魔法のできない義理の妹の方が素直で可愛いみたいです。
義理の妹は義理の母の連れ子。実父は愛する妻の子だから……と義理の妹の味方をします。わたくしは侍女と共に家を追い出されてしまいました。追い出された先は漁師町でした。
そして出会ったのが漁師一家でした。漁師一家はパーシヴァルとポリー夫婦と一人息子のクリス。しかし、クリスはただの漁師ではありませんでした。
そんな中、隣国からパーシヴァル一家へ突如兵士が訪問してきました。
一方、婚約破棄を迫ってきたエイブラハムは実はねずみ講をやっていて……そして、ざまあ。
ざまあの回には★がついています。

もう、今更です
ねむたん
恋愛
伯爵令嬢セリーヌ・ド・リヴィエールは、公爵家長男アラン・ド・モントレイユと婚約していたが、成長するにつれて彼の態度は冷たくなり、次第に孤独を感じるようになる。学園生活ではアランが王子フェリクスに付き従い、王子の「真実の愛」とされるリリア・エヴァレットを囲む騒動が広がり、セリーヌはさらに心を痛める。
やがて、リヴィエール伯爵家はアランの態度に業を煮やし、婚約解消を申し出る。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

【完結】私の婚約者はもう死んだので
miniko
恋愛
「私の事は死んだものと思ってくれ」
結婚式が約一ヵ月後に迫った、ある日の事。
そう書き置きを残して、幼い頃からの婚約者は私の前から姿を消した。
彼の弟の婚約者を連れて・・・・・・。
これは、身勝手な駆け落ちに振り回されて婚姻を結ばざるを得なかった男女が、すれ違いながらも心を繋いでいく物語。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしていません。本編より先に読む場合はご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる