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「アマリア、少し時間良いか?」

 学園でいきなりカラルスから声をかけられたかと思ったら、一言それだけ言うと私の返事を聞く事もなくサロンの方へ歩み始めた。
 ……意外と自分勝手だったのか、なんて今更ながら知ってしまう現実に苦笑したくなる。以前の私ならば誘われたら何も思わず、ただ後ろを喜んでついて行っただろう。

 ――それでも、嫌いになれないのだけど。

 後ろ姿を見つめながら、嫌な所をいくつもあげるけれど、胸が締め付けられる思いには変わりない。
 ずっと好きだった。 その思いは簡単には消えない事だけを理解してしまう。
 ……返事を聞くまでもなく……と思うけれど、私の返事はどうせ肯定以外ない気がする。……それをどこまで理性で抑えられるかなだけだ。







「王女殿下の教育係……ですか?」
「あぁ、王太子殿下の側近候補となったからか、年の離れた妹の教育係を探しているという相談を受けてな」

 サロンでお茶が来たタイミングで早速と言わんばかりにカラルスは話始めたが、私は思わず呆然としてしまった。
 前回、そんな話は聞いてない。私の知らない所で何があったと言うのだろうか。王太子殿下の側近候補を含めて、だ。
 何も知らないまま生きていて、何も知らないまま処刑されたと言う事になる。……私は本当に良い意味でも悪い意味をも含めて何もしていなかったのか。

「……今のアマリアならば安心して任せられると思う」

 ――ドキン。

 と、鼓動が高鳴るのを自分でも分かった。
 見ていてくれた、気が付いてくれた。たったそれだけの事で心が浮かれる。本当に恋とは厄介なものだ。

「と言っても、ほぼ相談役というか話し相手なんだが……どうだろう?」
「……そうですね……」

 即答でやります!と答えてしまう自分からは成長したと思う。というよりも、ここは選択を間違えてはいけない気がする。だって、王族が毒を盛られて私は処刑されたのだ……その王族を、私は誰か知らない。

「カラルスー!ここに居た!」

 答えを考えている内に、いきなり扉が開かれた……と同時に聞こえてきた声は、私が一番聞きたくない声で……。

「……ランテス男爵令嬢、ノックくらいしろ」
「えー!別に良いじゃない!私とカラルスの仲なんだからー!っと……」

 入室の許可なく入ってきたかと思えば、カラルスの隣に座って腕を絡ませる辺りまでセットなのか。私が目の前に居るというのに。
 そして、カラルスの隣に座ってから気が付いたと言わんばかりの視線をランテス男爵令嬢から向けられたが、その口角が僅かに上がった事を見逃さない。
 全くもって不愉快な光景だと言うのに、何も言わないカラルスに対して、苛立ちと絶望と悲しみと……色んな感情が混ざりあって、自我を保つだけでも必死な程となる。
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