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「アマリア様、一緒にお昼へ行きませんか?」
「本日はテラスでどうかしら」
前回とは全く違う日常。
お昼だって、いつもカラルスを探す為に、すぐ教室から出て行った私に友達どころか会話する知り合いさえ居なかった。勿論、お目当てのカラルスと一緒に昼食を取る事なんて出来なかったから、いつも一人で食堂に行っていた。
それが今は同じ教室で学ぶ他の令嬢達と数人で一緒にお喋りしながら食べるのだ。
「アマリア様、お茶の飲み方が美しいですね」
「そんな……」
いきなり褒められて、何て答えれば良いのか分からず、つい俯いてしまう。きっと今は顔が赤く染まっているだろう。……褒められ慣れていない。というより、前回から考えても褒められた事なんてないのではないだろうか。ずっと淑女教育をしていなかったせいでもあるけれど……。
「一気にそこまで出来るようになるなんて」
「きっと沢山の努力を重ねたのでしょう?」
「アマリア様はとても頑張る方だったのね」
言外に、今まではダメだったのだと濁されて言われているけれど、今を褒められているのなら嬉しくなる。確かに、そんなダメだったのかと思うけれど、努力はしっかり認められてもらえてる上に自分の内面を褒められれば悪い気は一切しない。
「カラルス~!」
語尾の伸びた独特の甘ったるい猫撫で声が聞こえる。
皆が一斉にそちらの方へ視線を向けると、昼食をとっているカラルスの隣に座るランテス男爵令嬢が見えて、周りの令嬢達が少しだけ眉間に皺を寄せた。
思わず周囲を見渡すと、食事中にも関わらず、扇で表情を隠す令嬢達も中には居る程だ。
……確かに、こんな大勢が居る食堂で、婚約者でもない男性の名前を呼び捨てにして隣に座るなんて……思わず眉をひそめたくなる行為ではある。
「みっともない……」
「ランテス男爵の家では、教育をしないのかしら」
「貴族なら貴族としての教育はしてもらいたいものね」
「見ていて不快だわ」
「公の場だという認識がないのかしら」
そんな声が周囲から聞こえ、思わず俯いてしまう。だって、以前の私だってしていた行為なのだから……。それが、今ではどれだけみっともない事なのか理解している為、自分自身にも恥ずかしさを覚えてしまい、何かを言葉にするのも躊躇ってしまう。
「アマリア様は今違いますから」
「ちゃんと成長されてるのは素晴らしい事です」
「大切なのは気が付いて進むことですわ」
庇う事なんて出来る事ではないし、批判の言葉も口から出せない。そんな私に気が付いてか、周りにいた令嬢達が口々にそんな事を言ってくれるけれど……。
――戻らなければ、気が付く事もなかった。
そんな事を胸に秘めて、少し複雑な思いで微笑んだ。
「本日はテラスでどうかしら」
前回とは全く違う日常。
お昼だって、いつもカラルスを探す為に、すぐ教室から出て行った私に友達どころか会話する知り合いさえ居なかった。勿論、お目当てのカラルスと一緒に昼食を取る事なんて出来なかったから、いつも一人で食堂に行っていた。
それが今は同じ教室で学ぶ他の令嬢達と数人で一緒にお喋りしながら食べるのだ。
「アマリア様、お茶の飲み方が美しいですね」
「そんな……」
いきなり褒められて、何て答えれば良いのか分からず、つい俯いてしまう。きっと今は顔が赤く染まっているだろう。……褒められ慣れていない。というより、前回から考えても褒められた事なんてないのではないだろうか。ずっと淑女教育をしていなかったせいでもあるけれど……。
「一気にそこまで出来るようになるなんて」
「きっと沢山の努力を重ねたのでしょう?」
「アマリア様はとても頑張る方だったのね」
言外に、今まではダメだったのだと濁されて言われているけれど、今を褒められているのなら嬉しくなる。確かに、そんなダメだったのかと思うけれど、努力はしっかり認められてもらえてる上に自分の内面を褒められれば悪い気は一切しない。
「カラルス~!」
語尾の伸びた独特の甘ったるい猫撫で声が聞こえる。
皆が一斉にそちらの方へ視線を向けると、昼食をとっているカラルスの隣に座るランテス男爵令嬢が見えて、周りの令嬢達が少しだけ眉間に皺を寄せた。
思わず周囲を見渡すと、食事中にも関わらず、扇で表情を隠す令嬢達も中には居る程だ。
……確かに、こんな大勢が居る食堂で、婚約者でもない男性の名前を呼び捨てにして隣に座るなんて……思わず眉をひそめたくなる行為ではある。
「みっともない……」
「ランテス男爵の家では、教育をしないのかしら」
「貴族なら貴族としての教育はしてもらいたいものね」
「見ていて不快だわ」
「公の場だという認識がないのかしら」
そんな声が周囲から聞こえ、思わず俯いてしまう。だって、以前の私だってしていた行為なのだから……。それが、今ではどれだけみっともない事なのか理解している為、自分自身にも恥ずかしさを覚えてしまい、何かを言葉にするのも躊躇ってしまう。
「アマリア様は今違いますから」
「ちゃんと成長されてるのは素晴らしい事です」
「大切なのは気が付いて進むことですわ」
庇う事なんて出来る事ではないし、批判の言葉も口から出せない。そんな私に気が付いてか、周りにいた令嬢達が口々にそんな事を言ってくれるけれど……。
――戻らなければ、気が付く事もなかった。
そんな事を胸に秘めて、少し複雑な思いで微笑んだ。
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