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「いってらっしゃいませ」

 御者の声に微笑みながらも、ドキドキしながら学園の門をくぐる。
 以前の私ならばカラルスの事だけを考えて、カラルスの名前を呼んで探していただろうけど、今はそんな事しない。背筋を伸ばして、しっかり地に足をつけて前に進む。
 自分の教室へ向かい椅子に座ると、窓から景色を眺めながら、前回はこんなゆったりした時間を、いつ取っただろうと思いながら楽しむ。
 感情が荒々しくカラルスを求め動いていた時に比べると、凪いでいる分落ち着いては居るのだが、それを楽しめる反面……不安が荒波のように襲う。

 ――ついこの間まで追いかけていたのに、何もしなくなった私にカラルスはどう思うのだろう。

 ズキンと鈍い痛みが胸を走る。こんな事で不安になったり心配する必要はないのに、やはりまだ好きなのだろう。
 ……そう簡単に諦めて忘れてしまう程、私のカラルスに対する思いは中途半端でなかった。ただ、それだけ。
 ふと、カラルスの姿が視界に映った気がして、思わず目を剥いた後、自分自身に驚く。結局は、無意識にでも目でカラルスの姿を探している自分に……。



 ◇



 変わらぬ日々。カラルスを追いかけていた時間を読書に充てれば、それなりの知識を得る事が出来た。前回では知らないまま終わっていた事が、こんなにあるのかと驚きながらも、世界の広さに感動する。今更ながら、図書室の誰も来ない一室でゆっくり本を読むのが自分にとって一番落ち着く時間と場所になってしまっているのだ。
 そして反面……何もしないカラルスに対して悲しさを覚える。
 私が何か起こしても、起こさなくても……何もしない。というより、私が動かなければ視界にすら入らないのだ。向こうから会いに来る事は勿論、手紙の一通も送られない。
 相も変わらず、無意識にカラルスを探しては、その姿を見つけると目で追ってしまっている。

 ――忘れたい。
 ――でも忘れられない。

 もどかしい相反する気持ちが胸を締め付け、ポロリと一滴涙が零れ落ちる。
 好きで。とても大好きで。どうしても忘れられなくて。
 その姿を探すのに、遠くから見つけてしまえば、カラルスを見ているだけでも苦しくなる。……そして、苦しくなるのを分かっているのに、探してしまうのだ。

「全然……楽しくない」

 何も考えず、好きだと言って追いかけていた時の方が楽しかった。カラルスの腕に寄り添って、隠す事なく笑っていた時の方が幸せを感じていた。

「思い合えるって奇跡なのね」

 平民向けの恋愛小説を思い出す。思い合って恋人同士になり、結婚する。お互いの想いが交わるなんて凄い事で……だから……恋愛を切なくも苦しいけれど楽しいものとして描けているのかもしれない。
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