9 / 23
09
しおりを挟む
「いってらっしゃいませ」
御者の声に微笑みながらも、ドキドキしながら学園の門をくぐる。
以前の私ならばカラルスの事だけを考えて、カラルスの名前を呼んで探していただろうけど、今はそんな事しない。背筋を伸ばして、しっかり地に足をつけて前に進む。
自分の教室へ向かい椅子に座ると、窓から景色を眺めながら、前回はこんなゆったりした時間を、いつ取っただろうと思いながら楽しむ。
感情が荒々しくカラルスを求め動いていた時に比べると、凪いでいる分落ち着いては居るのだが、それを楽しめる反面……不安が荒波のように襲う。
――ついこの間まで追いかけていたのに、何もしなくなった私にカラルスはどう思うのだろう。
ズキンと鈍い痛みが胸を走る。こんな事で不安になったり心配する必要はないのに、やはりまだ好きなのだろう。
……そう簡単に諦めて忘れてしまう程、私のカラルスに対する思いは中途半端でなかった。ただ、それだけ。
ふと、カラルスの姿が視界に映った気がして、思わず目を剥いた後、自分自身に驚く。結局は、無意識にでも目でカラルスの姿を探している自分に……。
◇
変わらぬ日々。カラルスを追いかけていた時間を読書に充てれば、それなりの知識を得る事が出来た。前回では知らないまま終わっていた事が、こんなにあるのかと驚きながらも、世界の広さに感動する。今更ながら、図書室の誰も来ない一室でゆっくり本を読むのが自分にとって一番落ち着く時間と場所になってしまっているのだ。
そして反面……何もしないカラルスに対して悲しさを覚える。
私が何か起こしても、起こさなくても……何もしない。というより、私が動かなければ視界にすら入らないのだ。向こうから会いに来る事は勿論、手紙の一通も送られない。
相も変わらず、無意識にカラルスを探しては、その姿を見つけると目で追ってしまっている。
――忘れたい。
――でも忘れられない。
もどかしい相反する気持ちが胸を締め付け、ポロリと一滴涙が零れ落ちる。
好きで。とても大好きで。どうしても忘れられなくて。
その姿を探すのに、遠くから見つけてしまえば、カラルスを見ているだけでも苦しくなる。……そして、苦しくなるのを分かっているのに、探してしまうのだ。
「全然……楽しくない」
何も考えず、好きだと言って追いかけていた時の方が楽しかった。カラルスの腕に寄り添って、隠す事なく笑っていた時の方が幸せを感じていた。
「思い合えるって奇跡なのね」
平民向けの恋愛小説を思い出す。思い合って恋人同士になり、結婚する。お互いの想いが交わるなんて凄い事で……だから……恋愛を切なくも苦しいけれど楽しいものとして描けているのかもしれない。
御者の声に微笑みながらも、ドキドキしながら学園の門をくぐる。
以前の私ならばカラルスの事だけを考えて、カラルスの名前を呼んで探していただろうけど、今はそんな事しない。背筋を伸ばして、しっかり地に足をつけて前に進む。
自分の教室へ向かい椅子に座ると、窓から景色を眺めながら、前回はこんなゆったりした時間を、いつ取っただろうと思いながら楽しむ。
感情が荒々しくカラルスを求め動いていた時に比べると、凪いでいる分落ち着いては居るのだが、それを楽しめる反面……不安が荒波のように襲う。
――ついこの間まで追いかけていたのに、何もしなくなった私にカラルスはどう思うのだろう。
ズキンと鈍い痛みが胸を走る。こんな事で不安になったり心配する必要はないのに、やはりまだ好きなのだろう。
……そう簡単に諦めて忘れてしまう程、私のカラルスに対する思いは中途半端でなかった。ただ、それだけ。
ふと、カラルスの姿が視界に映った気がして、思わず目を剥いた後、自分自身に驚く。結局は、無意識にでも目でカラルスの姿を探している自分に……。
◇
変わらぬ日々。カラルスを追いかけていた時間を読書に充てれば、それなりの知識を得る事が出来た。前回では知らないまま終わっていた事が、こんなにあるのかと驚きながらも、世界の広さに感動する。今更ながら、図書室の誰も来ない一室でゆっくり本を読むのが自分にとって一番落ち着く時間と場所になってしまっているのだ。
そして反面……何もしないカラルスに対して悲しさを覚える。
私が何か起こしても、起こさなくても……何もしない。というより、私が動かなければ視界にすら入らないのだ。向こうから会いに来る事は勿論、手紙の一通も送られない。
相も変わらず、無意識にカラルスを探しては、その姿を見つけると目で追ってしまっている。
――忘れたい。
――でも忘れられない。
もどかしい相反する気持ちが胸を締め付け、ポロリと一滴涙が零れ落ちる。
好きで。とても大好きで。どうしても忘れられなくて。
その姿を探すのに、遠くから見つけてしまえば、カラルスを見ているだけでも苦しくなる。……そして、苦しくなるのを分かっているのに、探してしまうのだ。
「全然……楽しくない」
何も考えず、好きだと言って追いかけていた時の方が楽しかった。カラルスの腕に寄り添って、隠す事なく笑っていた時の方が幸せを感じていた。
「思い合えるって奇跡なのね」
平民向けの恋愛小説を思い出す。思い合って恋人同士になり、結婚する。お互いの想いが交わるなんて凄い事で……だから……恋愛を切なくも苦しいけれど楽しいものとして描けているのかもしれない。
243
お気に入りに追加
3,962
あなたにおすすめの小説

【完結】私は側妃ですか? だったら婚約破棄します
hikari
恋愛
レガローグ王国の王太子、アンドリューに突如として「側妃にする」と言われたキャサリン。一緒にいたのはアトキンス男爵令嬢のイザベラだった。
キャサリンは婚約破棄を告げ、護衛のエドワードと侍女のエスターと共に実家へと帰る。そして、魔法使いに弟子入りする。
その後、モナール帝国がレガローグに侵攻する話が上がる。実はエドワードはモナール帝国のスパイだった。後に、エドワードはモナール帝国の第一皇子ヴァレンティンを紹介する。
※ざまあの回には★がついています。

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに
hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。
二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

従姉妹に婚約者を奪われました。どうやら玉の輿婚がゆるせないようです
hikari
恋愛
公爵ご令息アルフレッドに婚約破棄を言い渡された男爵令嬢カトリーヌ。なんと、アルフレッドは従姉のルイーズと婚約していたのだ。
ルイーズは伯爵家。
「お前に侯爵夫人なんて分不相応だわ。お前なんか平民と結婚すればいいんだ!」
と言われてしまう。
その出来事に学園時代の同級生でラーマ王国の第五王子オスカルが心を痛める。
そしてオスカルはカトリーヌに惚れていく。

婚約破棄ですか? 理由は魔法のできない義妹の方が素直で可愛いから♡だそうです。
hikari
恋愛
わたくしリンダはスミス公爵ご令息エイブラハムに婚約破棄を告げられました。何でも魔法ができるわたくしより、魔法のできない義理の妹の方が素直で可愛いみたいです。
義理の妹は義理の母の連れ子。実父は愛する妻の子だから……と義理の妹の味方をします。わたくしは侍女と共に家を追い出されてしまいました。追い出された先は漁師町でした。
そして出会ったのが漁師一家でした。漁師一家はパーシヴァルとポリー夫婦と一人息子のクリス。しかし、クリスはただの漁師ではありませんでした。
そんな中、隣国からパーシヴァル一家へ突如兵士が訪問してきました。
一方、婚約破棄を迫ってきたエイブラハムは実はねずみ講をやっていて……そして、ざまあ。
ざまあの回には★がついています。

もう、今更です
ねむたん
恋愛
伯爵令嬢セリーヌ・ド・リヴィエールは、公爵家長男アラン・ド・モントレイユと婚約していたが、成長するにつれて彼の態度は冷たくなり、次第に孤独を感じるようになる。学園生活ではアランが王子フェリクスに付き従い、王子の「真実の愛」とされるリリア・エヴァレットを囲む騒動が広がり、セリーヌはさらに心を痛める。
やがて、リヴィエール伯爵家はアランの態度に業を煮やし、婚約解消を申し出る。

【完結】私の婚約者はもう死んだので
miniko
恋愛
「私の事は死んだものと思ってくれ」
結婚式が約一ヵ月後に迫った、ある日の事。
そう書き置きを残して、幼い頃からの婚約者は私の前から姿を消した。
彼の弟の婚約者を連れて・・・・・・。
これは、身勝手な駆け落ちに振り回されて婚姻を結ばざるを得なかった男女が、すれ違いながらも心を繋いでいく物語。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしていません。本編より先に読む場合はご注意下さい。

最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

【完結】名ばかり婚約者だった王子様、実は私の事を愛していたらしい ~全て奪われ何もかも失って死に戻ってみたら~
Rohdea
恋愛
───私は名前も居場所も全てを奪われ失い、そして、死んだはず……なのに!?
公爵令嬢のドロレスは、両親から愛され幸せな生活を送っていた。
そんなドロレスのたった一つの不満は婚約者の王子様。
王家と家の約束で生まれた時から婚約が決定していたその王子、アレクサンドルは、
人前にも現れない、ドロレスと会わない、何もしてくれない名ばかり婚約者となっていた。
そんなある日、両親が事故で帰らぬ人となり、
父の弟、叔父一家が公爵家にやって来た事でドロレスの生活は一変し、最期は殺されてしまう。
───しかし、死んだはずのドロレスが目を覚ますと、何故か殺される前の過去に戻っていた。
(残された時間は少ないけれど、今度は殺されたりなんかしない!)
過去に戻ったドロレスは、
両親が親しみを込めて呼んでくれていた愛称“ローラ”を名乗り、
未来を変えて今度は殺されたりしないよう生きていく事を決意する。
そして、そんなドロレス改め“ローラ”を助けてくれたのは、名ばかり婚約者だった王子アレクサンドル……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる