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何度か勇気を出して話をしようとした。一人で居る所を見つけては声をかけたり、手紙を書いたり……でも、それは全て忙しいの返事一言が返ってきて終わるだけで……何も聞く事が出来ない、話す事が出来ない。
――婚約者なのに。
それなのに、あの女……フラリア・ランテス男爵令嬢は、隙あらばカラルスに纏わりついていて……これじゃどちらが婚約者か分からない程だ。
ただの嫉妬心……と言えばそれまでなのだろうけれど、どうしてもそこから怒りや悲しみの感情が溢れ出して苦しくなる。
いつだったか、ランテス男爵令嬢に声をかけられた事があったけれど、要件を聞く事もなく無視して通り過ぎた。大人げないと言われればそれまでだけれど、一体どんな神経をしていたら私に話かける事が出来るのだろうとさえ思える。そして、私は冷静に話をする事なんて絶対に出来ない。その姿を目に移すだけで、怒りや不愉快と言った感情が溢れかえってきて、抑えがきかなくなるのだ。むしろ、抑えてその場を立ち去っただけでも自分自身を褒めたい。
――恋は素敵なもの。
そんな事を言ったのは誰だったか。私も学園へ入る前までは確かにそう思っていたけれど、今は違う。
――恋は苦しく、醜いもの。
こんな醜い自分自身を知る事になろうとは、思ってもみなかった。出来れば、一生知らないまま終わりたかった……。
「どうして、あんな女を側に置いておくのかしら……」
「……お嬢様……」
呟いた私の言葉に、ルアは苦しそうな表情を見せる。ルアにだけは……心の内を少しだけでも吐き出しているから。
「……大丈夫よ」
だって婚約者は私なんだから。
そんな言葉を自分自身に言い聞かせながら、少しでもルアが安心するように微笑みかけるも、その表情が違う事をルアはよく分かっているのだろう。返す言葉はなくとも、ギュッと私を抱きしめてくれた。
「……カラルスは、ランテス男爵令嬢が好きなのかしら」
毎日のように見せつけられる二人の仲に、そんな事さえ思ってしまう。お互いに思い合っていても、公爵家と男爵家で婚姻を結ぶ事はまずない。爵位に差がありすぎる為だ。
……だから、今だけ……学園に居る間だけでも自由に戯れているとでもいうのだろうか。
そんな考えさえ浮かんでくる。
私とは会う事どころか話す事もないのに……婚約者を放置している、この扱いは何だと言うのだろう。学園へ来るのが憂鬱で仕方ない。今この時、やっと学園から去って邸へ帰れるという安堵感。
「アマリア」
そんな時に、珍しくカラルスから声をかけられた。……多分、学園で話すのはこれが初めてじゃないだろうか。それ程までに聞きたくても聞けなかった声が、私の胸を締め付けた。
――婚約者なのに。
それなのに、あの女……フラリア・ランテス男爵令嬢は、隙あらばカラルスに纏わりついていて……これじゃどちらが婚約者か分からない程だ。
ただの嫉妬心……と言えばそれまでなのだろうけれど、どうしてもそこから怒りや悲しみの感情が溢れ出して苦しくなる。
いつだったか、ランテス男爵令嬢に声をかけられた事があったけれど、要件を聞く事もなく無視して通り過ぎた。大人げないと言われればそれまでだけれど、一体どんな神経をしていたら私に話かける事が出来るのだろうとさえ思える。そして、私は冷静に話をする事なんて絶対に出来ない。その姿を目に移すだけで、怒りや不愉快と言った感情が溢れかえってきて、抑えがきかなくなるのだ。むしろ、抑えてその場を立ち去っただけでも自分自身を褒めたい。
――恋は素敵なもの。
そんな事を言ったのは誰だったか。私も学園へ入る前までは確かにそう思っていたけれど、今は違う。
――恋は苦しく、醜いもの。
こんな醜い自分自身を知る事になろうとは、思ってもみなかった。出来れば、一生知らないまま終わりたかった……。
「どうして、あんな女を側に置いておくのかしら……」
「……お嬢様……」
呟いた私の言葉に、ルアは苦しそうな表情を見せる。ルアにだけは……心の内を少しだけでも吐き出しているから。
「……大丈夫よ」
だって婚約者は私なんだから。
そんな言葉を自分自身に言い聞かせながら、少しでもルアが安心するように微笑みかけるも、その表情が違う事をルアはよく分かっているのだろう。返す言葉はなくとも、ギュッと私を抱きしめてくれた。
「……カラルスは、ランテス男爵令嬢が好きなのかしら」
毎日のように見せつけられる二人の仲に、そんな事さえ思ってしまう。お互いに思い合っていても、公爵家と男爵家で婚姻を結ぶ事はまずない。爵位に差がありすぎる為だ。
……だから、今だけ……学園に居る間だけでも自由に戯れているとでもいうのだろうか。
そんな考えさえ浮かんでくる。
私とは会う事どころか話す事もないのに……婚約者を放置している、この扱いは何だと言うのだろう。学園へ来るのが憂鬱で仕方ない。今この時、やっと学園から去って邸へ帰れるという安堵感。
「アマリア」
そんな時に、珍しくカラルスから声をかけられた。……多分、学園で話すのはこれが初めてじゃないだろうか。それ程までに聞きたくても聞けなかった声が、私の胸を締め付けた。
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