【完結】愛していたのに処刑されました。今度は関わりません。

かずきりり

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 胸が締め付けられるような感覚で、痛みさえ感じる。
 大声を上げて駆け寄って、あの女を引き剝がしたく思うも、身体が言う事を聞いてくれない。
 涙が出てきそうな目の痛みを耐え、その場から逃げる事しか出来なかった。

 挑む事も、問いただす事も出来ず、冷静になれる事もなく、ただ逃げただけ。

 あんな状態で一体何が出来るというのだろうか。そんな教育なんて一切受けていない。否、受けていなくても出来る人は応用を聞かせて動けるのだろう。……私には無理だ。そんなに賢いわけでもないし、そもそも教育もマトモに受けてはいない。

「お嬢様!?どうされました!?」
「帰る!」

 苦しさと寂しさと悔しさから、私は待機していた馬車まで走って行くと、心配する御者にそんな声をかけて急いで馬車に乗り込んだ。
 御者が扉の前で右往左往しているのが気配で分かるも、私が堰を切ったかのように泣き出すと、何も言わず静かに馬車を出してくれた――。


 ◇


 知る事が出来れば、意識する事が出来るわけで、何もなかった頃よりは気が付く事も出来る。
 目につくのは婚約者に近づく他の女。さも自分の婚約者であるかのようにカラルスに纏わりついている。

「みっともない……」

 そう自分で呟いて気が付いた。
 一目を憚らず身を寄せ、腕を絡ませ、抱き着いたりするその光景は、私が今までやってきた事だ。
 自分の姿を第三者として初めて見た時、思わず眉間に皺を寄せてしまう程に不愉快な光景だと言う事にまで気が付いた。……あれが婚約者同士だとしても、人の目を気にして欲しいと、見ている人も居るんだぞと不愉快な気持ちになる。
 周囲への気遣いも貴族として淑女教育を受けていれば知っている筈の知識なのに……。そんな事を思いながら、二人の姿を眺める。

 ――ただ、眺めるだけ。

 大丈夫、絶対大丈夫だと自分へ言い聞かせながら。
 私達には、一緒に歩み育んできた年月がある。カラルスはしっかりしてるから、他の女へ行く事はない。

 ――向こうが一方的にカラルスへ絡んでいるだけじゃないか。

 そんな事を思った時、更に胸へ痛みが走る。
 ……だって、あの姿は私そのものだ。カラルスが素っ気なくしているのに、それでも纏わりついている私自身の姿だ。
 だけど、私は胸の痛みを耐え、涙を耐え、どうすれば良いのか分からない不安のまま、カラルスを待つことしかしなかった。
 ……それ以外、出来なかったのだ。わからなかったのだ。せいぜい私に出来る事と言えば、カラルスに対して愛情を伝える事だけだったんだと、空っぽな自分へ対し、更に落ち込んでいった。
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