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「ジーン公爵令息がいらっしゃいました」
自分でもビクリと肩が跳ねたのを理解した。
ガゼボに歩いてくるカラルスに、以前の私であれば走って抱き着いたであろう。しかし……今はそんな事をしない。あの時についた心の傷は、私とカラルスの間に高い壁を作ったようだ。
「……ようこそいらっしゃいました」
「……あぁ」
これが婚約者同士の会話なのだろうか。そんな事までも頭の中を過る。それでも、カラルスを見ると心ときめいてしまう自分が居る。
そんな私自身を追い払うかのようにもてなそうと、対面の席を勧め、お互いが座ると紅茶に口をつける。確か……今日の話は学園に入った後の話をして、すぐに帰った筈。
これで確信が持てると思えば、緊張や不安で指先が震える。そして自分自身が理解している、いつもと違う自分。
――お願い、気が付いて。
――お願い、気が付かないで。
正反対の言葉が出てくる。頭では気が付かないで、分からないでいて……そう願うけれど、心は私に気が付いてと叫んでいる。ちょっとした変化を分かって。私を知ってと。
思考と感情の矛盾が起きている中、冷静さを保っているように見せながらカラルスの言葉を待つ。
「……もうすぐ学園へ入る事になるな」
――きた!
「そうですわね」
心拍数があがる。心臓の音がカラルスにまで聞こえないかと不安に思いながら、冷静に返す。
そんな私の様子に、カラルスはチラリとこちらに視線を向けたが、何事もなかったかのようにまたカップへと視線を戻した。
この後続く言葉は……。
「学園に入れば忙しくなると思うから一緒に向かう事は出来ない。帰りも別々になる」
「……わかりました」
一拍置いてから、了解の返事を返す。いつもの私なら駄々をこねて我儘を言うだろう。カラルスも、流石に私の異変に気が付いたのか眉間に皺を寄せて此方を見てきたが、私自身それどころではない。
……だって、同じだったから。
――どうして。
――何の為に。
――時間が巻き戻ったというの。
確定した事実に、呆然自失となる。
カラルスの事を好きだっただけなのに……冤罪で処刑された。それを、また繰り返すというのか。
そして……思い出す二人の姿。
ゾクリと背筋に寒気が走る。
「……アマリア?」
カラルスが私の名前を呼ぶも、声が出ない……否、呼吸すらまともに出来ない。
「アマリア!」
「アマリア様!?」
目の前がフッと暗くなったかと思ったら、カラルスとルアが叫びながら私の名前を呼ぶのが聞こえたのを最後に、私は気を失った。
自分でもビクリと肩が跳ねたのを理解した。
ガゼボに歩いてくるカラルスに、以前の私であれば走って抱き着いたであろう。しかし……今はそんな事をしない。あの時についた心の傷は、私とカラルスの間に高い壁を作ったようだ。
「……ようこそいらっしゃいました」
「……あぁ」
これが婚約者同士の会話なのだろうか。そんな事までも頭の中を過る。それでも、カラルスを見ると心ときめいてしまう自分が居る。
そんな私自身を追い払うかのようにもてなそうと、対面の席を勧め、お互いが座ると紅茶に口をつける。確か……今日の話は学園に入った後の話をして、すぐに帰った筈。
これで確信が持てると思えば、緊張や不安で指先が震える。そして自分自身が理解している、いつもと違う自分。
――お願い、気が付いて。
――お願い、気が付かないで。
正反対の言葉が出てくる。頭では気が付かないで、分からないでいて……そう願うけれど、心は私に気が付いてと叫んでいる。ちょっとした変化を分かって。私を知ってと。
思考と感情の矛盾が起きている中、冷静さを保っているように見せながらカラルスの言葉を待つ。
「……もうすぐ学園へ入る事になるな」
――きた!
「そうですわね」
心拍数があがる。心臓の音がカラルスにまで聞こえないかと不安に思いながら、冷静に返す。
そんな私の様子に、カラルスはチラリとこちらに視線を向けたが、何事もなかったかのようにまたカップへと視線を戻した。
この後続く言葉は……。
「学園に入れば忙しくなると思うから一緒に向かう事は出来ない。帰りも別々になる」
「……わかりました」
一拍置いてから、了解の返事を返す。いつもの私なら駄々をこねて我儘を言うだろう。カラルスも、流石に私の異変に気が付いたのか眉間に皺を寄せて此方を見てきたが、私自身それどころではない。
……だって、同じだったから。
――どうして。
――何の為に。
――時間が巻き戻ったというの。
確定した事実に、呆然自失となる。
カラルスの事を好きだっただけなのに……冤罪で処刑された。それを、また繰り返すというのか。
そして……思い出す二人の姿。
ゾクリと背筋に寒気が走る。
「……アマリア?」
カラルスが私の名前を呼ぶも、声が出ない……否、呼吸すらまともに出来ない。
「アマリア!」
「アマリア様!?」
目の前がフッと暗くなったかと思ったら、カラルスとルアが叫びながら私の名前を呼ぶのが聞こえたのを最後に、私は気を失った。
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