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34.大切な思い出でした

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ティン様の殺気に耐えきれず意識を失ったマルチダ様を兵達が抱えて連れて行く。未だに意識を取り戻さないアーサー様も一緒に。
振り返るティン様は心配そうな焦った表情を見ると、私も気が緩んだのか、襲い来る眠気に勝つ事も出来ず、意識が遠のいていく。
ティン様の腕の温もりを感じたのを最後に、私は意識を失った。





「お父様!あそこに子供が倒れています!」
「あぁ、助けよう」

そう言って助けた男の子。
数日間目を覚まさなくて、ずっと寄り添ってた私を、父や使用人達は優しく見守ってくれていた。

「私はロザリアと言います、あなたは?」

目を覚ました男の子は、最初は何かに怯えるように、心を閉ざしたまま、ただされるがままだった。
一週間もすると、徐々に打ち解けてくれていた。夜には何やら父と話をしているようだったが、その内容までは私に明かされる事はなかった。
毎日一緒に居て、一緒に遊んで。幼いながらに優しく、そしてたまに見せる力強さに心奪われるのは、すぐだった。
だけど、別れの時はくるもので———

「いやだ!ティン!行かないで!」
「リア………」

泣きわめく私に、困ったように眉を下げている。お父様も同じように私を見ている。

「……迎えに来るから」

ティンは、力強い瞳で私を見つめ、しっかり手を握りしめた。

「力をつけて迎えに来るから。…その時は、結婚してほしい。ずっと一緒にいよう」
「ほんとに?」
「必ずリアを幸せにすると約束する」
「わかった!待ってる!」

答えると、ティンは私の指に口付けた。
その後、父と二人視線を合わせ、頷きあう。

「定期連絡を入れます。貴方なら成し遂げるでしょう」
「あぁ、必ず」


あぁ———そうだ
待っていた。
ティンの為にと必死に色んなことを学んでいた。
なのに————王命で結ばれた婚約。
必死に父は抵抗を試みてくれたが、最終的に王命という手段に出られたのだ。
悔しそうな顔をして泣き謝るお父様。
心が絶望に支配された私。
そして私は———心を保つ為に記憶をなくした。



「……ティン………」
「どうした」

悲しみと、後悔と
ごちゃ混ぜになった感情から絞り出した声は愛しい人の名前。
すぐに望んだ人の声が返ってきて、安堵したところに、手に温もりを感じた。
思い瞼を少し開くと、光が目に刺さるようだ。
だけど、その目にあの人の姿を映したくて、必死に目を開け姿を探そうとすると、それに気がついたのか影が落とされ、何とか目を開けられるようになる。

「…ティン?」
「あぁ、具合はどうだ?」

目に映るは、あの時の少年の面影を残した青年。

「貴方だったのね…?」
「ん?」
「約束通り、迎えに来てくれたのね…?」
「っ!リア!」

驚きの表情を見せたティン様は、私の手を引き起こし、自分の胸へ抱きこんだ。

「リア!リア!!」

いつも優しく、力強いティン様は私の肩に顔をうずめ、泣いているかのようだ。
胸が痛い。忘れてしまっていた自分が憎い——けれど

「まだ……約束は有効でしょうか?」
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