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21.開いた口が塞がりません

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ディスタ国の王太子。
国力はアルロス帝国の方が上だとしても、無用な争いを起こすのは得策ではない。
それなりに対応は必要だろう…相手がどれだけ失礼でも。
というティン様の言葉に同意をした私は、二人が通されたと言う応接室へ向かっている。
正直、今あの時の事を思い出すと身震いする。屈辱なだけではなく、話が通じ無さ過ぎて、人と対面していると思えない程だったあれは恐怖に近い感情かもしれない。
しかし、しっかり前を見据えなければ。私はブラッドリー公爵令嬢なのだ。

そんな私の様子に気がついたのか、ティン様は私の腰に手を回し引き寄せる。

「俺はリアを離す気もなければ、離せる自信もない」

そう耳元で囁いたかと思ったら、頭に口づけを落とされた。

「ティン様!?」

一気に顔が真っ赤になる。さっきまでの恐怖が嘘のように消えたが、今は別の意味で心臓が高鳴ってしまっている。

「リア、可愛い」

動揺してしまっている私にティン様は優しく微笑むと、腰に手を添えたまま歩き出す。
先ほどの事もあり、更に近くなった距離に恥ずかしくて、両手を頬に添えて顔を俯かせたまま応接室への道のりを歩いたのだった——



「ロザリア!」
「ロザリア様!」

応接室へ入るとアーサー様とマルチダ様が揃って立ち上がり私の名前を呼びますが、アーサー様に至っては焦るような顔つきでも、マルチダ様は目線をティン様の方へ何度か向けているのが分かります。
そして二人はティン様と私の距離に気が付くと、怒りの表情が顔に現れました。
貴族の嗜みとして、こちらは気がついた事すら表情に出さず、対面の席につき二人に着席を促すと、まずは今回の件に関してティン様が苦言を告げる。

「先触れも無しに乗り込んでくるとは、些か不躾ではないか」
「婚約者なのですから当然です」
「元、だろう」

ティン様が厳しめの口調で返す。それだけで怒ったのがよく分かるが、そんな凍った空気を一切読めないマルチダ様までもが参戦してくる。

「お友達ですから、そんな堅苦しい事は言わないでください」
「「……は?」」

開いた口が塞がらないとは、この事だ。
私とティン様は呆れた声を出した後、少しばかり思考が停止してしまったようだ。
お友達?何を言っているんでしょうか。
卒業パーティでの事を思えば、友達になる要素はないどころか、むしろ永遠に関わりたくないレベル。
こちらは冤罪をかぶせられているし、それはもう罪と言って良い程だし、仮にマルチダ様が騙されてそう思い込んでいたとしても、嫌がらせしてきた相手に友達と言い放てるとは、どういう神経をしているのだろう…。

「私はマルチダ様とお友達になった覚えはございません」
「そんな!ひどい!」

否定をすると、涙目になってティン様に対し上目遣いをして見る。
そんなマルチダ様の行動に対し不愉快な感情が浮かび上がるも、隣に座るティン様がポツリと漏らした言葉に少し安心してしまった。

ひどいのはお前の頭だろう。と——
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