21 / 40
21.開いた口が塞がりません
しおりを挟む
ディスタ国の王太子。
国力はアルロス帝国の方が上だとしても、無用な争いを起こすのは得策ではない。
それなりに対応は必要だろう…相手がどれだけ失礼でも。
というティン様の言葉に同意をした私は、二人が通されたと言う応接室へ向かっている。
正直、今あの時の事を思い出すと身震いする。屈辱なだけではなく、話が通じ無さ過ぎて、人と対面していると思えない程だったあれは恐怖に近い感情かもしれない。
しかし、しっかり前を見据えなければ。私はブラッドリー公爵令嬢なのだ。
そんな私の様子に気がついたのか、ティン様は私の腰に手を回し引き寄せる。
「俺はリアを離す気もなければ、離せる自信もない」
そう耳元で囁いたかと思ったら、頭に口づけを落とされた。
「ティン様!?」
一気に顔が真っ赤になる。さっきまでの恐怖が嘘のように消えたが、今は別の意味で心臓が高鳴ってしまっている。
「リア、可愛い」
動揺してしまっている私にティン様は優しく微笑むと、腰に手を添えたまま歩き出す。
先ほどの事もあり、更に近くなった距離に恥ずかしくて、両手を頬に添えて顔を俯かせたまま応接室への道のりを歩いたのだった——
「ロザリア!」
「ロザリア様!」
応接室へ入るとアーサー様とマルチダ様が揃って立ち上がり私の名前を呼びますが、アーサー様に至っては焦るような顔つきでも、マルチダ様は目線をティン様の方へ何度か向けているのが分かります。
そして二人はティン様と私の距離に気が付くと、怒りの表情が顔に現れました。
貴族の嗜みとして、こちらは気がついた事すら表情に出さず、対面の席につき二人に着席を促すと、まずは今回の件に関してティン様が苦言を告げる。
「先触れも無しに乗り込んでくるとは、些か不躾ではないか」
「婚約者なのですから当然です」
「元、だろう」
ティン様が厳しめの口調で返す。それだけで怒ったのがよく分かるが、そんな凍った空気を一切読めないマルチダ様までもが参戦してくる。
「お友達ですから、そんな堅苦しい事は言わないでください」
「「……は?」」
開いた口が塞がらないとは、この事だ。
私とティン様は呆れた声を出した後、少しばかり思考が停止してしまったようだ。
お友達?何を言っているんでしょうか。
卒業パーティでの事を思えば、友達になる要素はないどころか、むしろ永遠に関わりたくないレベル。
こちらは冤罪をかぶせられているし、それはもう罪と言って良い程だし、仮にマルチダ様が騙されてそう思い込んでいたとしても、嫌がらせしてきた相手に友達と言い放てるとは、どういう神経をしているのだろう…。
「私はマルチダ様とお友達になった覚えはございません」
「そんな!ひどい!」
否定をすると、涙目になってティン様に対し上目遣いをして見る。
そんなマルチダ様の行動に対し不愉快な感情が浮かび上がるも、隣に座るティン様がポツリと漏らした言葉に少し安心してしまった。
ひどいのはお前の頭だろう。と——
国力はアルロス帝国の方が上だとしても、無用な争いを起こすのは得策ではない。
それなりに対応は必要だろう…相手がどれだけ失礼でも。
というティン様の言葉に同意をした私は、二人が通されたと言う応接室へ向かっている。
正直、今あの時の事を思い出すと身震いする。屈辱なだけではなく、話が通じ無さ過ぎて、人と対面していると思えない程だったあれは恐怖に近い感情かもしれない。
しかし、しっかり前を見据えなければ。私はブラッドリー公爵令嬢なのだ。
そんな私の様子に気がついたのか、ティン様は私の腰に手を回し引き寄せる。
「俺はリアを離す気もなければ、離せる自信もない」
そう耳元で囁いたかと思ったら、頭に口づけを落とされた。
「ティン様!?」
一気に顔が真っ赤になる。さっきまでの恐怖が嘘のように消えたが、今は別の意味で心臓が高鳴ってしまっている。
「リア、可愛い」
動揺してしまっている私にティン様は優しく微笑むと、腰に手を添えたまま歩き出す。
先ほどの事もあり、更に近くなった距離に恥ずかしくて、両手を頬に添えて顔を俯かせたまま応接室への道のりを歩いたのだった——
「ロザリア!」
「ロザリア様!」
応接室へ入るとアーサー様とマルチダ様が揃って立ち上がり私の名前を呼びますが、アーサー様に至っては焦るような顔つきでも、マルチダ様は目線をティン様の方へ何度か向けているのが分かります。
そして二人はティン様と私の距離に気が付くと、怒りの表情が顔に現れました。
貴族の嗜みとして、こちらは気がついた事すら表情に出さず、対面の席につき二人に着席を促すと、まずは今回の件に関してティン様が苦言を告げる。
「先触れも無しに乗り込んでくるとは、些か不躾ではないか」
「婚約者なのですから当然です」
「元、だろう」
ティン様が厳しめの口調で返す。それだけで怒ったのがよく分かるが、そんな凍った空気を一切読めないマルチダ様までもが参戦してくる。
「お友達ですから、そんな堅苦しい事は言わないでください」
「「……は?」」
開いた口が塞がらないとは、この事だ。
私とティン様は呆れた声を出した後、少しばかり思考が停止してしまったようだ。
お友達?何を言っているんでしょうか。
卒業パーティでの事を思えば、友達になる要素はないどころか、むしろ永遠に関わりたくないレベル。
こちらは冤罪をかぶせられているし、それはもう罪と言って良い程だし、仮にマルチダ様が騙されてそう思い込んでいたとしても、嫌がらせしてきた相手に友達と言い放てるとは、どういう神経をしているのだろう…。
「私はマルチダ様とお友達になった覚えはございません」
「そんな!ひどい!」
否定をすると、涙目になってティン様に対し上目遣いをして見る。
そんなマルチダ様の行動に対し不愉快な感情が浮かび上がるも、隣に座るティン様がポツリと漏らした言葉に少し安心してしまった。
ひどいのはお前の頭だろう。と——
86
お気に入りに追加
6,176
あなたにおすすめの小説
【完結済み】妹の婚約者に、恋をした
鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。
刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。
可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。
無事完結しました。
(完結)無能なふりを強要された公爵令嬢の私、その訳は?(全3話)
青空一夏
恋愛
私は公爵家の長女で幼い頃から優秀だった。けれどもお母様はそんな私をいつも窘めた。
「いいですか? フローレンス。男性より優れたところを見せてはなりませんよ。女性は一歩、いいえ三歩後ろを下がって男性の背中を見て歩きなさい」
ですって!!
そんなのこれからの時代にはそぐわないと思う。だから、お母様のおっしゃることは貴族学園では無視していた。そうしたら家柄と才覚を見込まれて王太子妃になることに決まってしまい・・・・・・
これは、男勝りの公爵令嬢が、愚か者と有名な王太子と愛?を育む話です。(多分、あまり甘々ではない)
前編・中編・後編の3話。お話の長さは均一ではありません。異世界のお話で、言葉遣いやところどころ現代的部分あり。コメディー調。
【完結】溺愛される意味が分かりません!?
もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢
ルルーシュア=メライーブス
王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。
学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。
趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。
有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。
正直、意味が分からない。
さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか?
☆カダール王国シリーズ 短編☆
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
今まで尽してきた私に、妾になれと言うんですか…?
水垣するめ
恋愛
主人公伯爵家のメアリー・キングスレーは公爵家長男のロビン・ウィンターと婚約していた。
メアリーは幼い頃から公爵のロビンと釣り合うように厳しい教育を受けていた。
そして学園に通い始めてからもロビンのために、生徒会の仕事を請け負い、尽していた。
しかしある日突然、ロビンは平民の女性を連れてきて「彼女を正妻にする!」と宣言した。
そしえメアリーには「お前は妾にする」と言ってきて…。
メアリーはロビンに失望し、婚約破棄をする。
婚約破棄は面子に関わるとロビンは引き留めようとしたが、メアリーは婚約破棄を押し通す。
そしてその後、ロビンのメアリーに対する仕打ちを知った王子や、周囲の貴族はロビンを責め始める…。
※小説家になろうでも掲載しています。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】え? いえ殿下、それは私ではないのですが。本当ですよ…?
にがりの少なかった豆腐
恋愛
毎年、年末の王城のホールで行われる夜会
この場は、出会いや一部の貴族の婚約を発表する場として使われている夜会で、今年も去年と同じように何事もなく終えられると思ったのですけれど、今年はどうやら違うようです
ふんわり設定です。
※この作品は過去に公開していた作品を加筆・修正した物です。
婚約破棄ですか? 理由は魔法のできない義妹の方が素直で可愛いから♡だそうです。
hikari
恋愛
わたくしリンダはスミス公爵ご令息エイブラハムに婚約破棄を告げられました。何でも魔法ができるわたくしより、魔法のできない義理の妹の方が素直で可愛いみたいです。
義理の妹は義理の母の連れ子。実父は愛する妻の子だから……と義理の妹の味方をします。わたくしは侍女と共に家を追い出されてしまいました。追い出された先は漁師町でした。
そして出会ったのが漁師一家でした。漁師一家はパーシヴァルとポリー夫婦と一人息子のクリス。しかし、クリスはただの漁師ではありませんでした。
そんな中、隣国からパーシヴァル一家へ突如兵士が訪問してきました。
一方、婚約破棄を迫ってきたエイブラハムは実はねずみ講をやっていて……そして、ざまあ。
ざまあの回には★がついています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる