4 / 40
04.暴力をふるわれました
しおりを挟む
「距離が近すぎます!それでは不貞を疑われかねません」
怯えず進言を続けるも、アーサー様は鼻で笑う。
「はっ。僕はマルチダ嬢を婚約者にすると決めたんだ。とやかく言われる筋合いはない」
—ありえない—
どうして誰も止めないの?
エルガー男爵が愛人の子である平民の娘を引き取ったと言うのは貴族社会で一気に噂として駆け巡った。
それは、その娘が貴族の学園へ入学するからというのもある。
いくら養女になったとはいえ、ついこの間まで平民だった人が貴族の学園へ入る事に、周囲は驚き狼狽えた。前代未聞の事でもあったからだ。
教養などはまだまだだったが、必死に勉強を頑張っている姿を見かけ、その努力が多少なりとも周囲には認められていっていたのは知っているが、多少は多少だった。
淑女の嗜みは全く出来ていないし、人との距離も近い。
特に異性に関しては問題になる事も多い…それがよりにもよって王太子殿下であるアーサー様との距離は格別に近かった為、何度か注意をしていた事はある。
名前を呼び捨ててはいけない。許可なく話してはいけない。無闇に触れてはいけない。
勉強は少しずつとは言え出来ているようだったが、アーサー様との距離だけは直る事はなかった。
そして…国の決まりとして、王家に嫁ぐ事が出来るのは伯爵家以上なのだ。
男爵家であるマルチダ様は嫁ぐ事が出来ない。
どこか伯爵家以上の家へ養女として入るという手段はあるものの、そもそも半分は平民の血が入っているのだ。
王家に入れる事は後継争いの火種になりかねないし、血筋を大事にする高位貴族達も黙ってはいない。
そんな事は当たり前なのに………
「王太子殿下、それは…」
「黙れ!この性悪が!お前の顔を見ていると虫唾が走る!」
悲しみが胸に広がる。動悸が…息が…苦しい。
涙を出さないよう扇で口元を隠し、必死で歯を食いしばる。
私が一体何をしたというの…?
「おい!こいつを取り押さえろ!」
「キャッ!」
思わず短く悲鳴を上げてしまう。
いきなり腕を掴まれ捻り上げられ取り押さえられたのだ。思わぬ力で膝まづいた時に、足が変な方向へ捻れてしまったのだろう。激痛が走る。
痛いと泣き叫びたい、痛みが思考を染めるが、残っている公爵令嬢としての矜持で泣いてたまるかと必死に耐える。
今声を上げてしまえば、きっと涙も出てしまうだろう。
「立て!」
そんな私の気持ちや状態をよそに、衛兵は声を荒らげ無理やり立たせようとする。
足が余計に変な方向へ捻じれ、ただただ成すがまま、必死に激痛に耐え、我慢するしか出来なかった。
気を抜いたら泣いてしまいそうだ。
悲鳴を上げて気を失ってしまいそうだ。
「何をしている。その手を離せ」
必死に気を保っていると、威圧感のある声が聞こえ、衛兵の動きが止まった。
無理矢理な力強い衛兵の手から、暖かく優しい腕に抱えられた気がする。
足へ無理な負荷はかかっていない。相変わらず激痛は走っているけれども。
「遅くなった、頑張ったな。リア」
怯えず進言を続けるも、アーサー様は鼻で笑う。
「はっ。僕はマルチダ嬢を婚約者にすると決めたんだ。とやかく言われる筋合いはない」
—ありえない—
どうして誰も止めないの?
エルガー男爵が愛人の子である平民の娘を引き取ったと言うのは貴族社会で一気に噂として駆け巡った。
それは、その娘が貴族の学園へ入学するからというのもある。
いくら養女になったとはいえ、ついこの間まで平民だった人が貴族の学園へ入る事に、周囲は驚き狼狽えた。前代未聞の事でもあったからだ。
教養などはまだまだだったが、必死に勉強を頑張っている姿を見かけ、その努力が多少なりとも周囲には認められていっていたのは知っているが、多少は多少だった。
淑女の嗜みは全く出来ていないし、人との距離も近い。
特に異性に関しては問題になる事も多い…それがよりにもよって王太子殿下であるアーサー様との距離は格別に近かった為、何度か注意をしていた事はある。
名前を呼び捨ててはいけない。許可なく話してはいけない。無闇に触れてはいけない。
勉強は少しずつとは言え出来ているようだったが、アーサー様との距離だけは直る事はなかった。
そして…国の決まりとして、王家に嫁ぐ事が出来るのは伯爵家以上なのだ。
男爵家であるマルチダ様は嫁ぐ事が出来ない。
どこか伯爵家以上の家へ養女として入るという手段はあるものの、そもそも半分は平民の血が入っているのだ。
王家に入れる事は後継争いの火種になりかねないし、血筋を大事にする高位貴族達も黙ってはいない。
そんな事は当たり前なのに………
「王太子殿下、それは…」
「黙れ!この性悪が!お前の顔を見ていると虫唾が走る!」
悲しみが胸に広がる。動悸が…息が…苦しい。
涙を出さないよう扇で口元を隠し、必死で歯を食いしばる。
私が一体何をしたというの…?
「おい!こいつを取り押さえろ!」
「キャッ!」
思わず短く悲鳴を上げてしまう。
いきなり腕を掴まれ捻り上げられ取り押さえられたのだ。思わぬ力で膝まづいた時に、足が変な方向へ捻れてしまったのだろう。激痛が走る。
痛いと泣き叫びたい、痛みが思考を染めるが、残っている公爵令嬢としての矜持で泣いてたまるかと必死に耐える。
今声を上げてしまえば、きっと涙も出てしまうだろう。
「立て!」
そんな私の気持ちや状態をよそに、衛兵は声を荒らげ無理やり立たせようとする。
足が余計に変な方向へ捻じれ、ただただ成すがまま、必死に激痛に耐え、我慢するしか出来なかった。
気を抜いたら泣いてしまいそうだ。
悲鳴を上げて気を失ってしまいそうだ。
「何をしている。その手を離せ」
必死に気を保っていると、威圧感のある声が聞こえ、衛兵の動きが止まった。
無理矢理な力強い衛兵の手から、暖かく優しい腕に抱えられた気がする。
足へ無理な負荷はかかっていない。相変わらず激痛は走っているけれども。
「遅くなった、頑張ったな。リア」
86
お気に入りに追加
6,176
あなたにおすすめの小説
【完結済み】妹の婚約者に、恋をした
鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。
刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。
可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。
無事完結しました。
(完結)無能なふりを強要された公爵令嬢の私、その訳は?(全3話)
青空一夏
恋愛
私は公爵家の長女で幼い頃から優秀だった。けれどもお母様はそんな私をいつも窘めた。
「いいですか? フローレンス。男性より優れたところを見せてはなりませんよ。女性は一歩、いいえ三歩後ろを下がって男性の背中を見て歩きなさい」
ですって!!
そんなのこれからの時代にはそぐわないと思う。だから、お母様のおっしゃることは貴族学園では無視していた。そうしたら家柄と才覚を見込まれて王太子妃になることに決まってしまい・・・・・・
これは、男勝りの公爵令嬢が、愚か者と有名な王太子と愛?を育む話です。(多分、あまり甘々ではない)
前編・中編・後編の3話。お話の長さは均一ではありません。異世界のお話で、言葉遣いやところどころ現代的部分あり。コメディー調。
【完結】溺愛される意味が分かりません!?
もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢
ルルーシュア=メライーブス
王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。
学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。
趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。
有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。
正直、意味が分からない。
さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか?
☆カダール王国シリーズ 短編☆
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
今まで尽してきた私に、妾になれと言うんですか…?
水垣するめ
恋愛
主人公伯爵家のメアリー・キングスレーは公爵家長男のロビン・ウィンターと婚約していた。
メアリーは幼い頃から公爵のロビンと釣り合うように厳しい教育を受けていた。
そして学園に通い始めてからもロビンのために、生徒会の仕事を請け負い、尽していた。
しかしある日突然、ロビンは平民の女性を連れてきて「彼女を正妻にする!」と宣言した。
そしえメアリーには「お前は妾にする」と言ってきて…。
メアリーはロビンに失望し、婚約破棄をする。
婚約破棄は面子に関わるとロビンは引き留めようとしたが、メアリーは婚約破棄を押し通す。
そしてその後、ロビンのメアリーに対する仕打ちを知った王子や、周囲の貴族はロビンを責め始める…。
※小説家になろうでも掲載しています。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】え? いえ殿下、それは私ではないのですが。本当ですよ…?
にがりの少なかった豆腐
恋愛
毎年、年末の王城のホールで行われる夜会
この場は、出会いや一部の貴族の婚約を発表する場として使われている夜会で、今年も去年と同じように何事もなく終えられると思ったのですけれど、今年はどうやら違うようです
ふんわり設定です。
※この作品は過去に公開していた作品を加筆・修正した物です。
婚約破棄ですか? 理由は魔法のできない義妹の方が素直で可愛いから♡だそうです。
hikari
恋愛
わたくしリンダはスミス公爵ご令息エイブラハムに婚約破棄を告げられました。何でも魔法ができるわたくしより、魔法のできない義理の妹の方が素直で可愛いみたいです。
義理の妹は義理の母の連れ子。実父は愛する妻の子だから……と義理の妹の味方をします。わたくしは侍女と共に家を追い出されてしまいました。追い出された先は漁師町でした。
そして出会ったのが漁師一家でした。漁師一家はパーシヴァルとポリー夫婦と一人息子のクリス。しかし、クリスはただの漁師ではありませんでした。
そんな中、隣国からパーシヴァル一家へ突如兵士が訪問してきました。
一方、婚約破棄を迫ってきたエイブラハムは実はねずみ講をやっていて……そして、ざまあ。
ざまあの回には★がついています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる