上 下
1 / 40

01.卒業パーティが開催されます

しおりを挟む
霞みがかった淡い景色の中、幼い男の子が立っている。
私に向かって、何かを言っているようで。

「ーー、ーー………」
「待って!聞こえないの!」

何か、とても大事な事だったような気がする。
けれど、その声が私に届く事はなくて、私は必死に問いかける。

「ーーー、ーーーーー」
「ねぇ、待って!」

——貴方は、誰なの——?



「…じょ…ま!………お嬢様!」
「え?」

カーテンの隙間から明るい光が差し込み、それが朝を告げているのだと理解した。
どうやら、いつもの時間に自分で目が覚め無かったのか、ベッドの側には侍女が居て私に声をかけている。

「…大丈夫ですか?」

幼い頃から私に仕えてくれている侍女のエリーが心配そうな顔で私の様子を伺っている。
起き上がり、大丈夫だと伝えようとしたら、太ももに水滴が落ちる。
ふと自分の顔に手を当てると、顔が濡れていることに気がついた。
…泣いていたのだろうか…
あれは誰だったのだろうか…うろ覚えでしかないけれど、とても切なく苦しい夢だったような気がする……
…夢…なのかな…

「お嬢様?」
「大丈夫よ」

エリーの問いかけに答え、ベッドから立ち上がるも、エリーは複雑そうな表情で私に水を差し出してきた。
長い付き合いだもの。大丈夫かそうではないかなんて、言葉ではない部分で気がついているのだろうと、少し自嘲めいた笑みを浮かべる。
そんな私の様子に、エリーの方が早く立ち直り、声をかけてくる。

「では!憂いを晴らす程に着飾らせて頂きますから、ご覚悟を!」
「そこまでする必要はないわよ?」
「何を言っているんですか!公爵令嬢であるお嬢様が着飾らずしてどうするのです!!」

元気に叫ぶエリーの声に、先ほど入ってきたメイド達の表情も頷く。
たかだか学園の卒業パーティというだけなのだが、やはりパーティはパーティなので、きちんと着飾る必要があるのは確かね…

「そうね。折角の卒業パーティだもの!着飾りましょう!お願いね」
「はい!」
「お任せください!」

元気良く侍女達が返事をして、各々の準備を始める。
エリーがそっと冷やしたタオルを渡してくれたので、目元を冷やす。腫れてしまったら更に手間をかけさせてしまう。
…結局、アーサー様からドレスは届かなかった…
10年前、第一王子であるアーサー・バデルと、宰相でもある父ブラッドリー公爵の娘である私ロザリアとは、お互いが8歳の時に結ばれた婚約で、婚約と同時に第一王子であるアーサー様は立太子した。
それからずっと、それなりに上手くやっていたと思っていた。

(まさかドレスが届かないなんて…)

勿論、それを知っている侍女達はそんな事を一言も口にしない。
いつもと同じように頑張って私を着飾ろうとしてくれる。
不安と寂しさから、あんな夢を見たのだろうか…
自分で手配したアーサー様の色を模したドレスは、とても虚しくも思えてしまった…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済み】妹の婚約者に、恋をした

鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。 刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。 可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。 無事完結しました。

(完結)無能なふりを強要された公爵令嬢の私、その訳は?(全3話)

青空一夏
恋愛
私は公爵家の長女で幼い頃から優秀だった。けれどもお母様はそんな私をいつも窘めた。 「いいですか? フローレンス。男性より優れたところを見せてはなりませんよ。女性は一歩、いいえ三歩後ろを下がって男性の背中を見て歩きなさい」 ですって!! そんなのこれからの時代にはそぐわないと思う。だから、お母様のおっしゃることは貴族学園では無視していた。そうしたら家柄と才覚を見込まれて王太子妃になることに決まってしまい・・・・・・ これは、男勝りの公爵令嬢が、愚か者と有名な王太子と愛?を育む話です。(多分、あまり甘々ではない) 前編・中編・後編の3話。お話の長さは均一ではありません。異世界のお話で、言葉遣いやところどころ現代的部分あり。コメディー調。

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

今まで尽してきた私に、妾になれと言うんですか…?

水垣するめ
恋愛
主人公伯爵家のメアリー・キングスレーは公爵家長男のロビン・ウィンターと婚約していた。 メアリーは幼い頃から公爵のロビンと釣り合うように厳しい教育を受けていた。 そして学園に通い始めてからもロビンのために、生徒会の仕事を請け負い、尽していた。 しかしある日突然、ロビンは平民の女性を連れてきて「彼女を正妻にする!」と宣言した。 そしえメアリーには「お前は妾にする」と言ってきて…。 メアリーはロビンに失望し、婚約破棄をする。 婚約破棄は面子に関わるとロビンは引き留めようとしたが、メアリーは婚約破棄を押し通す。 そしてその後、ロビンのメアリーに対する仕打ちを知った王子や、周囲の貴族はロビンを責め始める…。 ※小説家になろうでも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】え? いえ殿下、それは私ではないのですが。本当ですよ…?

にがりの少なかった豆腐
恋愛
毎年、年末の王城のホールで行われる夜会 この場は、出会いや一部の貴族の婚約を発表する場として使われている夜会で、今年も去年と同じように何事もなく終えられると思ったのですけれど、今年はどうやら違うようです ふんわり設定です。 ※この作品は過去に公開していた作品を加筆・修正した物です。

婚約破棄ですか? 理由は魔法のできない義妹の方が素直で可愛いから♡だそうです。

hikari
恋愛
わたくしリンダはスミス公爵ご令息エイブラハムに婚約破棄を告げられました。何でも魔法ができるわたくしより、魔法のできない義理の妹の方が素直で可愛いみたいです。 義理の妹は義理の母の連れ子。実父は愛する妻の子だから……と義理の妹の味方をします。わたくしは侍女と共に家を追い出されてしまいました。追い出された先は漁師町でした。 そして出会ったのが漁師一家でした。漁師一家はパーシヴァルとポリー夫婦と一人息子のクリス。しかし、クリスはただの漁師ではありませんでした。 そんな中、隣国からパーシヴァル一家へ突如兵士が訪問してきました。 一方、婚約破棄を迫ってきたエイブラハムは実はねずみ講をやっていて……そして、ざまあ。 ざまあの回には★がついています。

処理中です...