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『聖獣様! 国をお救い下さい!』
『止めて! 助けて!』
『偽物聖女を殺せ!』
『王太子殿下にそそのかされただけよ!』
暴動を起こした民衆に捕まったローズは、民達の手によって処刑場へ引きずり出される。
私の時とは比べ物にならない程の怒号と投石。石、というより拳大以上の大きさでのものまで投げ込まれている。
『私のせいじゃない!』
そんな叫びを繰り広げるローズに、今更何を言ってるんだと民衆は怒り、処刑台へと繋がれる。
『嫌! 嫌ぁああ!!』
貴族らしからぬ叫びと、涙に濡れた顔。
表情を出す事なかれと言われた淑女にしては、あるまじき表情を民に晒し出している。
「いらないんだけどなぁ」
と言っても、ここに送られてくるわけではない。
人間の世界で言う、あの世とやらに魂が行くだけで、私には関係のない事なのだけれど、生贄という思考回路が気持ち悪いのだ。
ゴツッ!
怒声と投石の中、見せしめのようにくくりつけられたローズの頭に、大きな石が直撃し、そのままローズの反応がなくなった。
「……あ」
思わず、ポツリと声を漏らす。
頭が割れ、とめどなく流れる血。微動だにしない身体。今は意識を失っているだけだとしても、そのうち失血死するだろう。
うぉおおおおおおっ!!
民衆達から歓声の声が上がるけれど、私は残念で仕方がない。だって、あの痛みをローズが経験しなかったのだから。
何度も落とされる刃。
意識を失う事も出来ず、痛みの中、ただ死んでいくのを待つだけという状況に立たされていないのだから。
投石で意識を失い、死んでいくなんて、私に比べればマシではないだろうか。
『これで国が助かる!』
『聖獣様!』
『我々を助けて下さい!』
ローズが死んで喜び、くだらない保身の声を上げる民達に、小さく溜息をつく。
私が助ける義理などない。
そう言わんばかりに、更に雨を降らして洪水を引き起こし、山を崩す。
遠くの山が崩れた事を見た王都の民達は悲鳴を上げて逃げ惑った。
「本物の聖女って何だろうね」
皮肉めいた笑みを浮かべる。
偽物とか、本物とか。
確かに聖女の力は目に見えないものなのだろう。
豊穣の力とも言われていたけれど、こんな事まで出来る聖女の、しいては聖獣の力。
繁栄と滅びは紙一重ということだろうか。
恵みの雨とも言うけれど、度がこえれば、土地を枯らして山を崩して洪水を引き起こす。
結局、聖女の力もそういうものなのだろう。
身の丈にあった行いを。安易に使うべきではない力。
――こんな愚者の国には、過ぎた力だったんだ。
自分で考える事をせず、身の保身しかなく、成長する事がないなんて、それはもう人間ではない何かだ。
だって、人間は考え学ぶ力があるのだから。
『止めて! 助けて!』
『偽物聖女を殺せ!』
『王太子殿下にそそのかされただけよ!』
暴動を起こした民衆に捕まったローズは、民達の手によって処刑場へ引きずり出される。
私の時とは比べ物にならない程の怒号と投石。石、というより拳大以上の大きさでのものまで投げ込まれている。
『私のせいじゃない!』
そんな叫びを繰り広げるローズに、今更何を言ってるんだと民衆は怒り、処刑台へと繋がれる。
『嫌! 嫌ぁああ!!』
貴族らしからぬ叫びと、涙に濡れた顔。
表情を出す事なかれと言われた淑女にしては、あるまじき表情を民に晒し出している。
「いらないんだけどなぁ」
と言っても、ここに送られてくるわけではない。
人間の世界で言う、あの世とやらに魂が行くだけで、私には関係のない事なのだけれど、生贄という思考回路が気持ち悪いのだ。
ゴツッ!
怒声と投石の中、見せしめのようにくくりつけられたローズの頭に、大きな石が直撃し、そのままローズの反応がなくなった。
「……あ」
思わず、ポツリと声を漏らす。
頭が割れ、とめどなく流れる血。微動だにしない身体。今は意識を失っているだけだとしても、そのうち失血死するだろう。
うぉおおおおおおっ!!
民衆達から歓声の声が上がるけれど、私は残念で仕方がない。だって、あの痛みをローズが経験しなかったのだから。
何度も落とされる刃。
意識を失う事も出来ず、痛みの中、ただ死んでいくのを待つだけという状況に立たされていないのだから。
投石で意識を失い、死んでいくなんて、私に比べればマシではないだろうか。
『これで国が助かる!』
『聖獣様!』
『我々を助けて下さい!』
ローズが死んで喜び、くだらない保身の声を上げる民達に、小さく溜息をつく。
私が助ける義理などない。
そう言わんばかりに、更に雨を降らして洪水を引き起こし、山を崩す。
遠くの山が崩れた事を見た王都の民達は悲鳴を上げて逃げ惑った。
「本物の聖女って何だろうね」
皮肉めいた笑みを浮かべる。
偽物とか、本物とか。
確かに聖女の力は目に見えないものなのだろう。
豊穣の力とも言われていたけれど、こんな事まで出来る聖女の、しいては聖獣の力。
繁栄と滅びは紙一重ということだろうか。
恵みの雨とも言うけれど、度がこえれば、土地を枯らして山を崩して洪水を引き起こす。
結局、聖女の力もそういうものなのだろう。
身の丈にあった行いを。安易に使うべきではない力。
――こんな愚者の国には、過ぎた力だったんだ。
自分で考える事をせず、身の保身しかなく、成長する事がないなんて、それはもう人間ではない何かだ。
だって、人間は考え学ぶ力があるのだから。
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