上 下
10 / 12

10

しおりを挟む
『聖獣様! 国をお救い下さい!』
『止めて! 助けて!』
『偽物聖女を殺せ!』
『王太子殿下にそそのかされただけよ!』

 暴動を起こした民衆に捕まったローズは、民達の手によって処刑場へ引きずり出される。
 私の時とは比べ物にならない程の怒号と投石。石、というより拳大以上の大きさでのものまで投げ込まれている。

『私のせいじゃない!』

 そんな叫びを繰り広げるローズに、今更何を言ってるんだと民衆は怒り、処刑台へと繋がれる。

『嫌! 嫌ぁああ!!』

 貴族らしからぬ叫びと、涙に濡れた顔。
 表情を出す事なかれと言われた淑女にしては、あるまじき表情を民に晒し出している。

「いらないんだけどなぁ」

 と言っても、ここに送られてくるわけではない。
 人間の世界で言う、あの世とやらに魂が行くだけで、私には関係のない事なのだけれど、生贄という思考回路が気持ち悪いのだ。

 ゴツッ!

 怒声と投石の中、見せしめのようにくくりつけられたローズの頭に、大きな石が直撃し、そのままローズの反応がなくなった。

「……あ」

 思わず、ポツリと声を漏らす。
 頭が割れ、とめどなく流れる血。微動だにしない身体。今は意識を失っているだけだとしても、そのうち失血死するだろう。

 うぉおおおおおおっ!!

 民衆達から歓声の声が上がるけれど、私は残念で仕方がない。だって、あの痛みをローズが経験しなかったのだから。
 何度も落とされる刃。
 意識を失う事も出来ず、痛みの中、ただ死んでいくのを待つだけという状況に立たされていないのだから。
 投石で意識を失い、死んでいくなんて、私に比べればマシではないだろうか。

『これで国が助かる!』
『聖獣様!』
『我々を助けて下さい!』

 ローズが死んで喜び、くだらない保身の声を上げる民達に、小さく溜息をつく。
 私が助ける義理などない。
 そう言わんばかりに、更に雨を降らして洪水を引き起こし、山を崩す。
 遠くの山が崩れた事を見た王都の民達は悲鳴を上げて逃げ惑った。

「本物の聖女って何だろうね」

 皮肉めいた笑みを浮かべる。
 偽物とか、本物とか。
 確かに聖女の力は目に見えないものなのだろう。
 豊穣の力とも言われていたけれど、こんな事まで出来る聖女の、しいては聖獣の力。
 繁栄と滅びは紙一重ということだろうか。
 恵みの雨とも言うけれど、度がこえれば、土地を枯らして山を崩して洪水を引き起こす。
 結局、聖女の力もそういうものなのだろう。
 身の丈にあった行いを。安易に使うべきではない力。

 ――こんな愚者の国には、過ぎた力だったんだ。

 自分で考える事をせず、身の保身しかなく、成長する事がないなんて、それはもう人間ではない何かだ。
 だって、人間は考え学ぶ力があるのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

あ、出ていって差し上げましょうか?許可してくださるなら喜んで出ていきますわ!

リーゼロッタ
ファンタジー
生まれてすぐ、国からの命令で神殿へ取られ十二年間。 聖女として真面目に働いてきたけれど、ある日婚約者でありこの国の王子は爆弾発言をする。 「お前は本当の聖女ではなかった!笑わないお前など、聖女足り得ない!本来の聖女は、このマルセリナだ。」 裏方の聖女としてそこから三年間働いたけれど、また王子はこう言う。 「この度の大火、それから天変地異は、お前がマルセリナの祈りを邪魔したせいだ!出ていけ!二度と帰ってくるな!」 あ、そうですか?許可が降りましたわ!やった! 、、、ただし責任は取っていただきますわよ? ◆◇◆◇◆◇ 誤字・脱字等のご指摘・感想・お気に入り・しおり等をくださると、作者が喜びます。 100話以内で終わらせる予定ですが、分かりません。あくまで予定です。 更新は、夕方から夜、もしくは朝七時ごろが多いと思います。割と忙しいので。 また、更新は亀ではなくカタツムリレベルのトロさですので、ご承知おきください。 更新停止なども長期の期間に渡ってあることもありますが、お許しください。

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

【完結】慈愛の聖女様は、告げました。

BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう? 2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は? 3.私は誓い、祈りましょう。 ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。 しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。 後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。

【完結】私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

処理中です...