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 曰く、たかが平民如きが、何故聖女になったのだと。
 平民は平民らしくいろと。
 平民が聖女である事に神殿の者達も不満だったと。

 王太子殿下が垂れ流す言葉を、私は無機質な瞳をしながら聞いていた。
 階級やプライドが全ての奴なんてのは、今日食べる物があるからこその事だ。それだけ生活に余裕があるのだ。
 その日の暮らしに困窮している人の事なんざ、何も理解していない。ただ権力を振りかざして好き勝手に扱う。そこに平民の人権なんてないと言っているようなものだ。
 私だって好きで婚約者になったわけではないというのに。聖女になんてなりたくなかったのに。本当に身勝手すぎる。
 ならば神託が下ったと言わなければ良いし、神託自体を偽れば良かったではないか。自分達の好きなように。プライドを守れるように。

『……』
『そんな……』
『嘘でしょ……』

 同じ祈りの間に居た騎士や使用人達は顔面蒼白となり、呟きを漏らした。全く知らなかったのだろう。そして、自分達の行為がどれほどのものだったのか理解できたようだ。
 そして、それらを知っていただろう国王陛下や国の重鎮となる上級貴族達は視線を反らす事しか出来ず、下級貴族はその考えに理解出来るのか俯く事しか出来なかった。

「くだらない」

 本当に、くだらない。
 荒れろ、荒れろ。
 もっと荒れろ。
 怒りは燃え上がり、恨みは募り、憎しみは膨れ上がると同時に、国は更に混沌と化していく。





『生贄に!』
『聖獣様に捧げろ!』

 民達の暴動が起きる。
 本物の聖女を偽物聖女が殺したと、あの場所に居た騎士や使用人達から平民へと話が流れたのだろう。王家やローズに向けて不満が爆発したようだ。

『本物の聖女様を返せ!』
『国がこんな事になったのは、お前達のせいだ!』

 自分達も私に向かって石を投げつけ、心ない言葉を浴びせたのを忘れて、全ての責任を王家へ擦り付けている。

『偽物聖女を聖獣の供物に!』
『その命をもってして許しを乞え!』
「要らないし」

 そんな穢れた物を供物になんてしないで欲しい。というか、貰っても困るどころか、ゴミ以下だ。
 汚物を供物にする思考回路が、最早理解できない。罪人を聖獣に送って、どうするというのか。というか、聖獣への生贄はゴミ処理場所ではないと言いたい。
 けれど、止める事なんてするわけもなく、ただ高みの見物と言わんばかりに眺めているだけだ。

 都合が良すぎる国王と、それに統治された民達の思考回路は同じなのかと、嫌悪感が膨れ上がる。
 汚物を処分する先は何処でも良くて、自分達の満足さえ得られれば何でもいいのかと。
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