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『助けて下さい。聖獣様』
『聖獣様、どうぞ国をお救い下さい』

 王族達が揃って聖獣に祈りを捧げている声が聞こえる。
 祈りの間には、王族だけでなく、集まれるだけの貴族も全て集まり、作られた祭壇に向かって一斉に頭を垂れている。
 その中には一縷の望みをかけてと言った様子で、使用人達の姿も隅の方で見えた。

「ぷっ……くく……あはははは!!」

 思わず、声をあげて笑った。
 くだらない。今更だ。
 一体誰に向かって祈っているのだろう。
 お前等の命が、私にとっては一番価値がなく、そして何より苦しめたい存在だと言うのに。

『聖女様!』
『本物の聖女様!』
『助けて下さい!』

 民達が本物の聖女であるローズに対して救いを求め、祈り捧げている。その数は神殿だけでは収まりきらなかったのだろう、城の前までもが人で溢れかえっている。王都近くに住む民達は、全て集まってきているのだろう。
 群衆の叫びは、王城の中にまで聞こえ、王族の耳にも届いている。

『デザイア公爵令嬢! 何とかしろ!』
『そうだ! ローズ! お前がどうにかしろ!』

 しびれを切らしたかのように国王陛下が叫べば、それに便乗するかのように王太子殿下まで叫ぶ。
 まるで責任転嫁をしているようにさえ見え、上流階級に位置する貴族達の眉間には皺が寄っていたけれど、下流階級や使用人達は、希望に目を輝かせていた。その中に、本来は貴族達を守る為に居た護衛騎士達も、祈るようにローズへ視線を向けている。

『そうだ! 我々には聖女様が居るではないか!』
『聖女様の祈りにならば聖獣様も応えてくれるだろう!』
『私には何も出来ないわよ!!』

 王城の外だけで飽き足らず、中にまで広がる聖女への声に、ローズはたまったものじゃないといった様子で叫んだ。

『いやいや、やっと偽物が居なくなったのですから』
『本物の聖女様が、お力を発揮できる時です!』
『そうだぞ、ローズ! 本物の聖女として役に立つ時がきたのだ!』
『何言ってんのよ! あんたが言い出した事でしょ!?』

 貴族らしからぬローズの口調に、皆ポカンと口を開けるけれど、王太子殿下や国王陛下、それに一部上流階級貴族の顔に焦りが見えた。
 ローズを止めようとするデザイア公爵だったが、それよりもローズが言葉を放つ方が早かった。

『そもそも聖女の力なんて目に見えるものじゃないから乗っ取れと言ったのは王太子殿下でしょう!?』

 祈りの間が静寂に包まれる。
 王太子殿下は、そんな様子を気に掛けるより、言われた言葉に対して顔を真っ赤にして怒りの表情を浮かべて口を開いた。

『いくら聖女とは言え、なぜ俺が平民なんかと結婚しなくてはならないんだ! 冗談じゃない!』
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