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人々の恨みを一身に浴び、私は処刑台へと固定される。
恨みたいのは、私だ。
そう思えば、先ほどまで懇願していたような声や涙なんて全て枯れ果てた。
――私の存在は一体何だったというのか。
勝手に神殿へ連れてこられ、こき使われて。
挙句に冤罪で処刑。家族も殺された。
「殺せー!」
「死を持って償え!」
「命で贖え!」
何もしていない相手に、酷い言葉を浴びせ、石を投げかけるものなのかと、鼻で笑う。
くだらない。
本当にくだらない。
――この国が……くだらない。
「落とせ」
何の感情も籠っていない声で下された刑の執行。
ガンッと、首の後ろに固い物が当たり、痛みが走る。温かい液体が広がっていくのを感じながらも、私の意識は飛びさえもしない。
痛みより憎しみが。
叫ぶより恨みが。
私の死を望む歓声に、これ以上こいつらを喜ばせてなるものかという思いが耐えさせる。
「もう一度」
再度落とされる刃。
余程錆びているか、切れ味が悪いのだろう。
一思いに死ぬ事も出来ないなんて。
何度も振り落とされる刃の中、私は自身の意識がなくなり、命が絶たれるその瞬間まで、ただ憎悪の炎を燃やし続けた。
――許さない許さない許さない許さない許さない!
そうして私は処刑された。
意識が浮上する。
再び目を開けた私は、一瞬にして此処が現世ではない事を悟った。
広がる澄んだ青空に、緑が生い茂る大地は普通なのだが、花は空中を舞っていて、目の高さには小さな雲が浮かんでいる。
目の前にある雲へ手を伸ばそうとしたら、ふわふわもこもこな前足のようなものが見えた。
思わず自分の身体を眺めれば、全身ふわもこで、立とうとすれば四足歩行になっている事に気が付いた。
『目覚めたのね……』
いつの間にか目の前には、美しく長いたてがみを綺麗に靡かせ、額には一角のある、もふもふした馬が居た。
いや、これは馬じゃない。絵画などで何度も見て来た。
――聖獣。
そこから、全てを理解するのは早かった。
全てが頭の中に入ってくるように……、否、まるで全てを知っていたのを思い出すように。
ここは聖獣の住まう空間で、目の前に居るのは、紛れもなく聖獣で……自分はその子どもなのだと。
――そう、これが本来の聖女である私の役目だ。
聖女と呼ばれる存在は、その生を全うしたら聖獣となる。
そして、聖獣となってからも国を守るのが役目なのだ。
聖獣の寿命は長いけれど不死ではない。だからこそ、聖獣としての生が途切れる前に、次の聖女が生まれて、生を全うし終えてから聖獣の世代交代となる。
聖女として国を愛し、国を守り、国を我が子のように思えるよう、人間として一度生まれるのだと。
恨みたいのは、私だ。
そう思えば、先ほどまで懇願していたような声や涙なんて全て枯れ果てた。
――私の存在は一体何だったというのか。
勝手に神殿へ連れてこられ、こき使われて。
挙句に冤罪で処刑。家族も殺された。
「殺せー!」
「死を持って償え!」
「命で贖え!」
何もしていない相手に、酷い言葉を浴びせ、石を投げかけるものなのかと、鼻で笑う。
くだらない。
本当にくだらない。
――この国が……くだらない。
「落とせ」
何の感情も籠っていない声で下された刑の執行。
ガンッと、首の後ろに固い物が当たり、痛みが走る。温かい液体が広がっていくのを感じながらも、私の意識は飛びさえもしない。
痛みより憎しみが。
叫ぶより恨みが。
私の死を望む歓声に、これ以上こいつらを喜ばせてなるものかという思いが耐えさせる。
「もう一度」
再度落とされる刃。
余程錆びているか、切れ味が悪いのだろう。
一思いに死ぬ事も出来ないなんて。
何度も振り落とされる刃の中、私は自身の意識がなくなり、命が絶たれるその瞬間まで、ただ憎悪の炎を燃やし続けた。
――許さない許さない許さない許さない許さない!
そうして私は処刑された。
意識が浮上する。
再び目を開けた私は、一瞬にして此処が現世ではない事を悟った。
広がる澄んだ青空に、緑が生い茂る大地は普通なのだが、花は空中を舞っていて、目の高さには小さな雲が浮かんでいる。
目の前にある雲へ手を伸ばそうとしたら、ふわふわもこもこな前足のようなものが見えた。
思わず自分の身体を眺めれば、全身ふわもこで、立とうとすれば四足歩行になっている事に気が付いた。
『目覚めたのね……』
いつの間にか目の前には、美しく長いたてがみを綺麗に靡かせ、額には一角のある、もふもふした馬が居た。
いや、これは馬じゃない。絵画などで何度も見て来た。
――聖獣。
そこから、全てを理解するのは早かった。
全てが頭の中に入ってくるように……、否、まるで全てを知っていたのを思い出すように。
ここは聖獣の住まう空間で、目の前に居るのは、紛れもなく聖獣で……自分はその子どもなのだと。
――そう、これが本来の聖女である私の役目だ。
聖女と呼ばれる存在は、その生を全うしたら聖獣となる。
そして、聖獣となってからも国を守るのが役目なのだ。
聖獣の寿命は長いけれど不死ではない。だからこそ、聖獣としての生が途切れる前に、次の聖女が生まれて、生を全うし終えてから聖獣の世代交代となる。
聖女として国を愛し、国を守り、国を我が子のように思えるよう、人間として一度生まれるのだと。
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