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「マリー! お前のような偽聖女との婚約を破棄し、私は本物の聖女である、デザイア公爵家のローズ嬢と婚約する!」
王城で、聖女に対する感謝の意を示した舞踏会が行われている最中、私の婚約者であるエリオット王太子殿下は、声高らかに宣言した。
この場には国中の貴族、つまり中には国の中枢を担う大臣達も居るし、神殿関係者である大神官達も居るのだ。
しかし、その人達は殿下の宣言に対して狼狽える事もなければ、止めに入る事もしない。つまり、この舞台は仕組まれていたのだろう。
――望んで聖女になったわけではないのに。
ギュッと拳を握りしめた。
聖女の神託が下ったと言われ、平民であった私は問答無用で神殿へ連れていかれた。そこでは平民上がりの聖女として朝から晩まで働き詰めの毎日。
国への祈りは勿論の事、掃除から洗濯など自分の事は勿論、挙句の果てには神官達の分まで全て。……どんな使用人扱いだと言うのだろう。
そして質素を掲げている神殿だが、私への料理は残り物も良いところだった。
ただでさえ肉なんて贅沢なものは出ないのに、貰えるのは何日か前に残ったカビの生えたパンと、残った野菜屑の入ったスープを薄められたもの。神官達は普通の食事をしているというのにだ。
……ちなみに、畑の世話も私がやらされている。自給自足と神殿がうたっているからだ。
王太子殿下との婚約だって、望んでいたわけではない。
民と寄り添う為に、聖女は王家に嫁ぐものだとして、勝手に結ばれたのだ。そこに私の意思なんて全くないし、好意なんて皆無だ。
民から王家への忠誠心や、王族の威厳の為だろう。聖女を無理矢理、国に縛り付けているとしか思えない。
――そう、私はただ利用されてきただけだ。
――家族を人質に。
何度も脱走を試みた。逃げ出そうともがいたし、必死に訴えもした。
けれど、聖女を輩出した家だからという理由で家族に援助をしていると言われれば、耐えるしかない。今日食べるパンを買うのでさえ苦労していたのだから。援助があれば、少しは楽に暮らせるだろう家族を思って、ずっと耐え忍んでいただけなのだから。
でも、それももう終わりだ。本物の聖女が現れたと言うのであれば、私はもう自由の筈だ。
「婚約破棄、受け入れます」
「待て!」
まだ何かあると言うのだろうか。
せいぜい国から追放されるだけだろうと思い、喜々とした気持ちを噛みしめながら会場を出ようと振り返った私に、王太子殿下は声をあげた。
「偽聖女を騙った罪、許されると思うな!」
は?
言っている意味が分からず、脳が一瞬思考停止をしている間に、私は近衛騎士達に囲まれる。
問答無用で地面に叩きつけられ、力任せに両腕を背中に回され、まるで人権のない罪人のように引きずられて会場を出される。
クスクスと笑う貴族や神官達の声と、高笑いする王太子殿下の声を耳に残しながら。
王城で、聖女に対する感謝の意を示した舞踏会が行われている最中、私の婚約者であるエリオット王太子殿下は、声高らかに宣言した。
この場には国中の貴族、つまり中には国の中枢を担う大臣達も居るし、神殿関係者である大神官達も居るのだ。
しかし、その人達は殿下の宣言に対して狼狽える事もなければ、止めに入る事もしない。つまり、この舞台は仕組まれていたのだろう。
――望んで聖女になったわけではないのに。
ギュッと拳を握りしめた。
聖女の神託が下ったと言われ、平民であった私は問答無用で神殿へ連れていかれた。そこでは平民上がりの聖女として朝から晩まで働き詰めの毎日。
国への祈りは勿論の事、掃除から洗濯など自分の事は勿論、挙句の果てには神官達の分まで全て。……どんな使用人扱いだと言うのだろう。
そして質素を掲げている神殿だが、私への料理は残り物も良いところだった。
ただでさえ肉なんて贅沢なものは出ないのに、貰えるのは何日か前に残ったカビの生えたパンと、残った野菜屑の入ったスープを薄められたもの。神官達は普通の食事をしているというのにだ。
……ちなみに、畑の世話も私がやらされている。自給自足と神殿がうたっているからだ。
王太子殿下との婚約だって、望んでいたわけではない。
民と寄り添う為に、聖女は王家に嫁ぐものだとして、勝手に結ばれたのだ。そこに私の意思なんて全くないし、好意なんて皆無だ。
民から王家への忠誠心や、王族の威厳の為だろう。聖女を無理矢理、国に縛り付けているとしか思えない。
――そう、私はただ利用されてきただけだ。
――家族を人質に。
何度も脱走を試みた。逃げ出そうともがいたし、必死に訴えもした。
けれど、聖女を輩出した家だからという理由で家族に援助をしていると言われれば、耐えるしかない。今日食べるパンを買うのでさえ苦労していたのだから。援助があれば、少しは楽に暮らせるだろう家族を思って、ずっと耐え忍んでいただけなのだから。
でも、それももう終わりだ。本物の聖女が現れたと言うのであれば、私はもう自由の筈だ。
「婚約破棄、受け入れます」
「待て!」
まだ何かあると言うのだろうか。
せいぜい国から追放されるだけだろうと思い、喜々とした気持ちを噛みしめながら会場を出ようと振り返った私に、王太子殿下は声をあげた。
「偽聖女を騙った罪、許されると思うな!」
は?
言っている意味が分からず、脳が一瞬思考停止をしている間に、私は近衛騎士達に囲まれる。
問答無用で地面に叩きつけられ、力任せに両腕を背中に回され、まるで人権のない罪人のように引きずられて会場を出される。
クスクスと笑う貴族や神官達の声と、高笑いする王太子殿下の声を耳に残しながら。
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