【完結】ネットゲームで知り合った配信者に恋をした

かずきりり

文字の大きさ
上 下
53 / 57

53

しおりを挟む
 喫茶店で軽食を食べて、映画を見て、ウィンドウショッピングをする。

「しぃの好きなもの教えて」

 そんな一言にすらドキドキしてしまって、まともに考えを巡らせる事が出来なくなってしまう。
 自分の新たな一面が色んな所で飛び出してきて、羞恥心でどうにかなりそうだと思う反面、楽しい。ロイさんと一緒に居る時間が、この上なく幸せで仕方がない。

「ロイさんは何が好きなの?」
「俺は意外とオタクだよ」
「知ってる」

 ちょっとした事で笑い合い、お互いの好みを知る。そんな些細な事でさえ、今までしてこなかった、否、する距離感じゃなかった。
 縮んだ距離に心弾ませ、ロイさんの事を沢山知る事が出来て、私はやっぱりロイさんの事が好きなのだと改めて実感する。
 その反面、「好きだった」と過去形にして送った最後のメッセージが脳裏に過る。
 ロイさんは触れてこないし、私も触れていない。実際どう思っているのだろう。
 不安が小さく込み上げるけれど、今はそれに触れられていない事に安堵しながら、この楽しさを満喫していれば辺りが暗くなっていく。

「あ、そろそろ向かおうか」

 ロイさんに案内された場所は高層ホテルの夜景が見えるレストランで、私は思わず狼狽えた。ドレスコードとか大丈夫なのかと思ったけれど、流石にお互いジーンズというラフすぎる恰好ではない。

「あの……」
「大丈夫」

 高級そうで、マナーにも自信がない。いきなり連れてこられては心の準備なんて出来ておらず、躊躇うどころか逃げ出したくなる気持ちが溢れてきたが、ロイさんの言葉で少し安心する。
 店員に止められる事もなく案内された席に着けば、そこは夜景を見渡す事が出来る、窓際の席だ。

「すごい」

 思わず出る声を止める事が出来なくて、ネオン輝く街並みを見下ろす。
 人間なんて、とても小さくて、その中の一人として居たのだと思えば少し寂しい気持ちが芽生える。でも、これだけ多くの人が居る中で、私はロイさんと出会えたのかと思えば、それは奇跡にも近い。

「喜んでもらえて良かった」

 優しい笑顔で言うロイさんに、もう何度目か分からない鼓動の高鳴りを覚える。

「ここは口コミ評価高くて、料理も美味しいらしいよ。……分からないけど」

 実際食べた事ないからと、そっぽ向くロイさんに安心感が込み上げる。ここでネットでの情報だと言われなければ、私は誰と、どんな女と来たのか想像して、また不安に襲われていただろうから。
 店がオススメするシャンパンを飲み、小前菜・前菜・スープ・魚料理・ソルベと舌鼓を打ちながら楽しむ。
しおりを挟む
ツギクルバナー

あなたにおすすめの小説

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

2月31日 ~少しずれている世界~

希花 紀歩
恋愛
プロポーズ予定日に彼氏と親友に裏切られた・・・はずだった 4年に一度やってくる2月29日の誕生日。 日付が変わる瞬間大好きな王子様系彼氏にプロポーズされるはずだった私。 でも彼に告げられたのは結婚の申し込みではなく、別れの言葉だった。 私の親友と結婚するという彼を泊まっていた高級ホテルに置いて自宅に帰り、お酒を浴びるように飲んだ最悪の誕生日。 翌朝。仕事に行こうと目を覚ました私の隣に寝ていたのは別れたはずの彼氏だった。

一目惚れ、そして…

詩織
恋愛
完璧な一目惚れ。 綺麗な目、綺麗な顔に心を奪われてしまった。 一緒にいればいるほど離れたくなくなる。でも…

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

あなたが居なくなった後

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの専業主婦。 まだ生後1か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。 朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。 乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。 会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願う宏樹。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

処理中です...