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何も返せなくなった私に対し、慎司も無言で歩みを進める。
どうしよう。どうするべきか。
考えているうちに、歩は進む。
「詩帆? どうする?」
顔をあげれば、ラブホテルが並んでいる街道が目に見えた。
慎司の言いたい事は分かったし、あえて私に選択肢をくれる優しさも理解できた。
慎司なら。慎司であれば。
――好きになれるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に抱いて、小さく頷けば、慎司はネオンが明るく光る街道へと歩みを進めていった。
◇
「シャワー浴びてくるね」
慎司と交代して浴室へ入る頃には、私の中で酔いは冷めていた。
ドキドキと高鳴る鼓動は、緊張か、それとも不安か。自分でも説明しきれない、何とも言えない感情が溢れている。
呼吸が詰まる。息が上手く吸えない。
だけど、それでも僅かにある希望へと縋り付く。
女は度胸だと自分に言い聞かせ、シャワーを浴び呼吸を整えてから浴室を出る。
「詩帆」
バスローブを羽織り、ベッドへ腰かけている慎司が緊張の含む声で呼びかけてきた。
私は慎司に、震えている事が気付かれないようにして近づけば、力強く腕を引かれ、ベッドへと倒された。
ゆっくりと唇を重ねると、前で結んであるバスローブの紐は解かれ、慎司の手が滑りこんでくる。
手と唇が、ゆっくり私の全身に這っていく。慎司の温もりが、刻み込まれるように。
「っ!」
漏れる吐息から声が出そうになって唇を噛みしめれば、慎司の手が頬を這う。
「詩帆」
甘い声で何度も呼ばれる名前。
大事な物に触れるかのような、優しい手つき。
愛おしそうに何度も触れられる唇。
慎司の私への気持ちが十分すぎる程に伝わってくる愛撫に、呼吸が荒くなる。けれど、足に固く反り返った慎司のものが触れた瞬間、息を飲んだ。
この温もりや、重さを、上書きされているようで。
ロイさんではない体温。ロイさんとは違う重み。ロイさんとは違う息遣い。
「あ……」
忘れたくない。
塗り替えたくない。
まだ覚えている、ロイさんの温もりや重み。ロイさんのもの。
「詩帆……もぅ……」
言って、顔を上げた慎司は私を見るなり、大きく目を見開いて止まった。
慎司が悲しそうな、それでいて呆れるような表情をし、目に手を添えてきた事で、私は自分が泣いている事に気が付いた。
「ご……めんなさ……」
言葉を発したら、自覚できる程に涙が零れ始める。
「ごめんなさ……」
「良いから」
溜息をつきながらも、涙を拭って、優しく頭を撫でてくれる慎司。私は何て事をしているのだろうと罪悪感に襲われた。
どうしよう。どうするべきか。
考えているうちに、歩は進む。
「詩帆? どうする?」
顔をあげれば、ラブホテルが並んでいる街道が目に見えた。
慎司の言いたい事は分かったし、あえて私に選択肢をくれる優しさも理解できた。
慎司なら。慎司であれば。
――好きになれるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に抱いて、小さく頷けば、慎司はネオンが明るく光る街道へと歩みを進めていった。
◇
「シャワー浴びてくるね」
慎司と交代して浴室へ入る頃には、私の中で酔いは冷めていた。
ドキドキと高鳴る鼓動は、緊張か、それとも不安か。自分でも説明しきれない、何とも言えない感情が溢れている。
呼吸が詰まる。息が上手く吸えない。
だけど、それでも僅かにある希望へと縋り付く。
女は度胸だと自分に言い聞かせ、シャワーを浴び呼吸を整えてから浴室を出る。
「詩帆」
バスローブを羽織り、ベッドへ腰かけている慎司が緊張の含む声で呼びかけてきた。
私は慎司に、震えている事が気付かれないようにして近づけば、力強く腕を引かれ、ベッドへと倒された。
ゆっくりと唇を重ねると、前で結んであるバスローブの紐は解かれ、慎司の手が滑りこんでくる。
手と唇が、ゆっくり私の全身に這っていく。慎司の温もりが、刻み込まれるように。
「っ!」
漏れる吐息から声が出そうになって唇を噛みしめれば、慎司の手が頬を這う。
「詩帆」
甘い声で何度も呼ばれる名前。
大事な物に触れるかのような、優しい手つき。
愛おしそうに何度も触れられる唇。
慎司の私への気持ちが十分すぎる程に伝わってくる愛撫に、呼吸が荒くなる。けれど、足に固く反り返った慎司のものが触れた瞬間、息を飲んだ。
この温もりや、重さを、上書きされているようで。
ロイさんではない体温。ロイさんとは違う重み。ロイさんとは違う息遣い。
「あ……」
忘れたくない。
塗り替えたくない。
まだ覚えている、ロイさんの温もりや重み。ロイさんのもの。
「詩帆……もぅ……」
言って、顔を上げた慎司は私を見るなり、大きく目を見開いて止まった。
慎司が悲しそうな、それでいて呆れるような表情をし、目に手を添えてきた事で、私は自分が泣いている事に気が付いた。
「ご……めんなさ……」
言葉を発したら、自覚できる程に涙が零れ始める。
「ごめんなさ……」
「良いから」
溜息をつきながらも、涙を拭って、優しく頭を撫でてくれる慎司。私は何て事をしているのだろうと罪悪感に襲われた。
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