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12.侵入してきたもの
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穏やかに流れる時間。
生きるために行う生存的な行動。煩わしいものが一切なくて、貴族として生活していた頃の苦悩なんてものを思い出す事もなくなっていた。
ここでずっと生活してきたと思えるほどで、戻りたいという気持ちなんて微塵も起こらない。
「見てシヴァ!綺麗な花が咲いているわ!」
「本当だ。家に飾る?」
何かを伝えると、ちゃんと返ってくる言葉。
シヴァはちゃんと私を見て、私の言葉を聞いて、反応を返してくれる事に嬉しくて、感謝して。
このままずっとシヴァの側に居たいと思っていたし、居ると信じていた。
今までの生贄達のように。寿命を迎えるその瞬間まで。
◇
「っ!」
「シヴァ?」
弾かれたように、森の一点を見つめるシヴァに、問いかけた。
その表情は今まで見たことがないくらいに険しい。
「どうしたの?」
微かに肩が震えているのが分かる。
一体何が起こったというのだろう……。
「マリアは……」
私の方を見る事なく、少し俯き悲しそうな表情をしてシヴァが呟く。
「マリアは……戻りたい?」
「絶対嫌」
シヴァが唐突に放った戻るという言葉。
戻る場所なんてシヴァと出会う前の場所でしかないだろう。
間髪入れずに放った私の言葉に、シヴァは顔をあげて私を見る。
「私は、シヴァの隣に居たい。拾ったのはシヴァだよね?捨てるの??」
神様なのに?と少しおどけて更に言った。
笑って言うつもりだったけれど、顔が引きつった気がする。あの頃の生活のように、仮面のような笑顔を貼り付ける事が出来なくなっているのだろう。私にはもう必要のないものだから、別に良い。
そんな私を見て、シヴァは少し戸惑ったように表情をした後、私に向かって手を伸ばしたかと思ったら、そのまま私を抱きしめた。
「……捨てない……捨てないよ……許されるならば、ずっと側に居て」
神様というのは、こんなに淋しがり屋なのだろうか。
シヴァの方が捨てられた幼い子どものようで、私は返事の変わりにシヴァの背中に手を回し、ギュっと抱きついた。
私はここにいる。シヴァもここにいる。
お互い、ずっと側にいる。
生きてきた年月を考えたら、まだ少しの時間しか経っていないけれど、もう隣にいるのが当たり前のように思える。
シヴァが私を抱きしめる腕に力を込めたかと思ったら、衝撃的な一言を呟いた。
「……マリアの親が、マリアを迎えにきたよ……」
「……嘘よ……」
血の気がひくような感覚がしたが、それ以上に私は信じられなかった。
生きるために行う生存的な行動。煩わしいものが一切なくて、貴族として生活していた頃の苦悩なんてものを思い出す事もなくなっていた。
ここでずっと生活してきたと思えるほどで、戻りたいという気持ちなんて微塵も起こらない。
「見てシヴァ!綺麗な花が咲いているわ!」
「本当だ。家に飾る?」
何かを伝えると、ちゃんと返ってくる言葉。
シヴァはちゃんと私を見て、私の言葉を聞いて、反応を返してくれる事に嬉しくて、感謝して。
このままずっとシヴァの側に居たいと思っていたし、居ると信じていた。
今までの生贄達のように。寿命を迎えるその瞬間まで。
◇
「っ!」
「シヴァ?」
弾かれたように、森の一点を見つめるシヴァに、問いかけた。
その表情は今まで見たことがないくらいに険しい。
「どうしたの?」
微かに肩が震えているのが分かる。
一体何が起こったというのだろう……。
「マリアは……」
私の方を見る事なく、少し俯き悲しそうな表情をしてシヴァが呟く。
「マリアは……戻りたい?」
「絶対嫌」
シヴァが唐突に放った戻るという言葉。
戻る場所なんてシヴァと出会う前の場所でしかないだろう。
間髪入れずに放った私の言葉に、シヴァは顔をあげて私を見る。
「私は、シヴァの隣に居たい。拾ったのはシヴァだよね?捨てるの??」
神様なのに?と少しおどけて更に言った。
笑って言うつもりだったけれど、顔が引きつった気がする。あの頃の生活のように、仮面のような笑顔を貼り付ける事が出来なくなっているのだろう。私にはもう必要のないものだから、別に良い。
そんな私を見て、シヴァは少し戸惑ったように表情をした後、私に向かって手を伸ばしたかと思ったら、そのまま私を抱きしめた。
「……捨てない……捨てないよ……許されるならば、ずっと側に居て」
神様というのは、こんなに淋しがり屋なのだろうか。
シヴァの方が捨てられた幼い子どものようで、私は返事の変わりにシヴァの背中に手を回し、ギュっと抱きついた。
私はここにいる。シヴァもここにいる。
お互い、ずっと側にいる。
生きてきた年月を考えたら、まだ少しの時間しか経っていないけれど、もう隣にいるのが当たり前のように思える。
シヴァが私を抱きしめる腕に力を込めたかと思ったら、衝撃的な一言を呟いた。
「……マリアの親が、マリアを迎えにきたよ……」
「……嘘よ……」
血の気がひくような感覚がしたが、それ以上に私は信じられなかった。
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